第八十七話
食事の最中だというのに襲ってきた空気を読めないコボルドに怒りの剣撃を叩き込み魔石を拾う。次の襲撃に備えて大盾に換装し残ったカツサンドを平らげた。
これがダンジョン探索が進まない理由だ。休憩時も完全に休まる事はなく常にモンスターを警戒しなければならない。
パーティーを組むのが普通なので半数づつ休憩と警戒に別れるらしいのだが、いざ戦闘となれば全員で当たる必要があるので完全に気を抜く事は出来ない。
それを根本から覆し、ダンジョン内での安眠すら可能にする迷い家はぶっ壊れどころの話ではない。神様は本当にとんでもないスキルを授けてくれたものだ。
「そうだよな、優での探索だけど休憩に迷い家を使わないなんて縛りをする必要は無いんだよな・・・」
少し移動して十四階層への最短経路から外れれば人などまず来ない。そこで玉藻になって迷い家に入ればのんびりとカツサンドを味わえたのだ。
自分の間抜けさにやり場の無い怒りを感じる。この怒りをどうしようかと思っていた所にコボルドが現れた。
「お前に恨みがある訳では無い。しかし、この場に現れた事を不幸と思ってもらおうか」
理不尽な怒気に一瞬怯んだコボルドだったが、すぐに気を持ち直して襲ってきた。俺は繰り出された右腕を躱し、殴ってきた左腕を大盾で弾く。
双剣に換装し、弾いた左腕の肘関節へと叩き込む。骨の継ぎ目に入った剣は抵抗なくコボルドの腕を切断し、支えを失った腕は地面に落ちた。
それを呆然と見つめるコボルドの胴体に容赦なく斬りつけるとコボルドは魔石へと変化した。
「所詮奇襲が取り柄のコボルドか。多少器用でも脅威にはならないな」
これでは大盾の訓練にも双剣の訓練にもならない。次の階層に進んでしまおう。
続く十四階層の跳び百足は外殻が少し硬くて切り裂くのに手間がかかったものの、継ぎ目を狙う事でサクサクと倒す事が出来た。
十五階層のサラマンダーも大盾の防御力を抜く事は出来ず、双剣での攻撃が通るので大盾と双剣の切り替えで苦労する事なく撃破する事が出来た。
鉄扇で切った時ほど楽には切れなかったが、この双剣でも背中の鱗を貫けた。偶然手に入れた双剣だったが、本当に良い仕事をしてくれる。
続く十六階層。まずは三匹の群れ狼と遭遇した。ここの十六階層は上野と違い荒野ステージとなっている為、前と左右に展開され囲まれた状態になっている。
まずは右から襲ってきた狼をしゃがんで躱し、時間差で飛び込んできた狼を大盾で上に弾く。それにより空いた胴体目掛けて残った狼が噛みついてきたが、双剣に換装して開いた口に剣を突き刺した。
三重のコンビネーションで俺を仕留められると思っていたのか、狼は仲間が倒された事に狼狽し動きを止めた。
そこを見逃してやる義理もなければ義務もない。片方の狼に迫り慌てて回避しようとする狼を連撃で切り裂く。
残った狼はやけくそ気味に飛び込んできたが、そんな攻撃は通用しない。大盾に換装し、受けた瞬間に地面へと叩きつける。すぐさま双剣に換装して地面ごと突くと絶命した。
落ちている魔石を三つ拾いリュックに収納する。この階層では大盾よりも手数で勝負する双剣の方が戦いやすい。
大盾で防いで、なんて時間を掛けていては違う群れがやって来て多数に包囲される恐れがある。素早く全滅させないと万が一もあり得る。
その後数度の戦闘で魔石を増やし地上への帰路についた。この先に進むかどうかを冷静に考えなければならないな。




