第八十四話
母さんが作ってくれたお弁当での昼食を挟み、青毛熊との戦いを繰り返した。剣と盾の変更も実戦でスムーズに行える自信がついたので、明日はオークに挑戦しよう。
優では戦っていないが、玉藻で戦った感じでは恐れるべき相手ではないと思う。懸念だった攻撃力不足は解消された。ゴーレムの居る十七階層までは問題なく進めるだろう。
地上に戻るべく最短経路を進んでいると、軍の一団らしき団体と遭遇した。全員が陸軍の軍服を着用しているから間違いないだろう。
「おっ、大盾使いとはこれはまた珍しい。この間上野で話題になった探索者か」
「ええ、最近上野ダンジョンで甲羅を手に入れて加工してもらいました。ここは人が少ないですから、慣らしに最適なんです」
団体の先頭を歩く隊長らしき軍人さんに話しかけられた。他の軍人も興味津々といった感じで俺を見ている。
「場所によっては獲物の取り合いになるダンジョンもあるからな。人が居ないから野営訓練に使えるのだが、間引きの手間を考えるともう少し探索者に入ってほしいな」
「人間、楽な方に転がりますから・・・」
「若いのに達観しとるな。言うまでもないかもしれんが、ソロは危険だ。もう体験したようだがモンスターだけでなく人間にも気をつけろよ」
俺への忠告を残して部隊は去って行った。隊長さんはあの放送を見て俺を覚えていたようだが、あの番組はそんなに視聴率が良かったのだろうか。
翌日も朝からいつものダンジョンに入る。対青毛熊戦は昨日で十分なので更に先に進んでいく。七階層のゴブリンは玉藻になり焼いて進む。新品の剣や大盾にこいつらの臭いをつけたくない。
八階層の迷い猫でモフモフを堪能し精神を回復させた。魅了無効のスキルさえあれば存分にモフモフするのだが、それが無いので引き際を誤っては魅了されてしまう。
自身の尻尾をモフり放題ではあるのだが、それはそれこれはこれ。にゃんこは狐尻尾とは違った趣きのモフモフなのである。
九階層の落とし亀はスルーしていく。穴の中で大盾は使えないし、剣もつっかえて使いにくいから鍛錬にならない。なので優としては初めての十階層に降りる。
十一階層への最短経路から外れて歩くと、すぐにオークと遭遇した。玉藻で来た時には血走った目で突進してきたオークだが、今回は棍棒を構えてジリジリと迫ってきた。
「男と女でこうも違うか。知識として知ってはいたが、違いすぎないか?」
などと言った所でオークは聞いちゃいない。両手で振るわれた棍棒を大盾でガードする。青毛熊の攻撃とは比べ物にならない衝撃を踏ん張って堪える。
玉藻で戦った時は片手で振るっていた棍棒を両手で振るってきた。これは女性は致命傷を与えずに連れ帰るから手加減するが、男性はいらないから全力で叩くという事だろう。
「この世界でも男女差別は非難されるぞ・・・と言っても無駄だな」
攻撃を防ぎきられてオークは怒りに任せて棍棒を頭上に振りかざす。勢いをつけて降ろされた棍棒は先程よりも早く、威力も増しているだろう。
俺は大盾を僅かに斜めに構え、棍棒を正面から受けずに受け流した。大盾の表面を滑った棍棒は地面を叩き、オークの体勢を崩す。
すかさず双剣に換装し、隙だらけの腹部を斬りつけた。左右で四撃叩き込んだがオークは辛うじて堪え、横殴りに棍棒を振るう。
大盾に換装し棍棒を上に弾くと、弱ったオークは勢いでたたらを踏んだ。再度双剣に換装し両手の剣を腹に突き刺すと、さしものオークも耐えきれずに魔石へと変化した。




