第八百三十話
迷い家を潜水艦乗組員に公開する許可を得るため関中佐にメールを送った。受け入れて帝国臣民になったとはいえ、元は他国人だ。少し揉めるかと思ったのだがあっさりと許可は降りた。
「こっ、これは・・・」
「これが妾のスキル、迷い家じゃよ。任意の場所に異空間への入り口を開くスキルじゃ。妾の許しを得た者のみが入れる世界じゃよ」
艦長さんに手隙の乗員を集めてもらい迷い家を披露する。乗員全員への許可を出して迷い家へと導くと、初めてここに入った人達がとったリアクションを再現してくれた。
「せ、潜水艦の中なのに山がある・・・」
「艦長、海もありますよ。海中に海があるとか、訳が分からない!」
「あれは果樹園?ここまで甘い匂いが・・・」
ダンジョンという異空間でこういう理不尽な現象は既知のものな筈だが、また違った驚きがあるのだろう。
「野菜も果物もすぐに実る故いくらでも食べて構わぬ。山はそれぞれ四季に対応しておる。花見やキノコ狩り、スキーも出来るぞえ」
「神使様、ここで生活が完結しませんか?」
「否定はせぬよ。やろうと思えばここでずっと生活する事も可能じゃ」
実際、うちの家族もニックとアーシャもここに入り浸りになっているしね。前回のバージョンアップで調味料も無限に手に入るようになったから、ずっと生活する事も可能だ。
「本当に、ここを使わせていただいて良いのでしょうか?」
「構わぬよ。狭い艦内ではストレスも溜まるじゃろう。好きに過ごすがよい」
初めは恐る恐る行動していた乗組員の人達もじきに慣れてきたようだ。山に狩りに行き、猪を仕留めてきた猛者までいた。
「どうしたの玉藻ちゃん、浮かない顔をして」
「少々問題が発生してのぅ、直接関わる物ではないのじゃが、影響はありそうなのじゃ」
今回の騒動自体が想定外の出来事だったが、更に想定の斜め上を行く出来事が発生した。と言うより暴露されたが正解かな。
「事件を解決した辻谷候補生が、ネットで炎上しておるそうじゃ」
「あのクジラを召喚した子よね。讃えられるなら分かるけど、何故炎上しているの?」
「辻谷候補生が辻谷候補生ではなかったのじゃ」
母さんは意味が分からないようで首を傾げている。気持ちはよく分かる。俺が同じ事を言われても訳が分からず混乱するだろう。
「辻谷候補生は辻谷候補生と偽った偽物じゃったのじゃ。本物の辻谷は東北で高校に通っているそうじゃよ」
切っ掛けは、とある学生が英雄と同姓同名のクラスメートが居るとSNSに投稿した事だった。面白がったネット民がその話題を深掘りした結果、そのクラスメートが辻谷候補生ではないかとの疑惑が浮かんだらしい。
「え、どういう事?その辻谷という子が二人?双子だったの?」
「候補生の辻谷は、海軍が送り込んできた間諜だったそうじゃ。辻谷の身分を借りて入学させたと海軍から連絡が来たと言っておった」
辻谷が二人居る事が世間にバレ始め、困った海軍が陸軍に泣きついてきたそうだ。関中佐、本営で頭を抱えているだろうな。
助力したいがこっちは潜航中の潜水艦の中。関中佐、火消しを頑張って下さい。帝都に戻ったら干し芋と干し柿を差し入れしますから。




