第八百二十九話
「玉藻お姉ちゃん、お芋焼けたよ」
「態々秋の山から落ち葉を集めて焚き火をするとはのぅ・・・」
潜水艦での旅を始めた俺達だったが、その感動は半日も保たなかった。そう広くない艦内、見学にそう時間は掛からなかった。
洋上艦ならば潮風に吹かれながら大海原を堪能出来たのたが、潜航中の潜水艦では甲板に出る事など出来やしない。
現在位置の確認と通信の受け取りの為浮上はするのだが、発見されない事を優先する為浮上するのは夜間のみとなっていた。海上から見る星空は綺麗であったが、発見される事を避ける為長時間浮上したまま航行する事はしない。
結果、迷い家で過ごす事となり暇潰しに焚き火をしてお芋でも焼こうという事になった。これではいつもと変わらない。
「今では焚き火で焼き芋というのも贅沢な行為になったよなぁ」
「そうねぇ。一々消防署に届け出をしないと焚き火も出来ないもの」
父さんと母さんが子供の頃は、道端で焚き火をするのも珍しくない光景だったそうだ。
「神使様、陛下、申し訳ありませんが相談したい事がありまして・・・」
開いたままにしてある迷い家の出入口からノックの音と共に艦長さんの声が聞こえた。俺達は急いで迷い家から出て出入口を消す。
「お寛ぎの所を申し訳ありません、少々おかしな現象が・・・」
入室してきた艦長さんの視線が、俺達の手にある焼き芋に注がれている。急いで戻ってきた為、食べかけの焼き芋を持ってきてしまったのだ。
「艦長殿、おかしな現象とは何が起こっておるのじゃ?」
「あっ、はい。現在深度二百で潜航中なのですが、通常の電波や電波灯台からの位置情報が受信されているようなのです。航行に支障がある訳では無いのですが、不可解な為神使様と陛下のお耳に入れておこうと思いまして」
通常、海中を航行する潜水艦は海上や陸上からの電波を受信する事は出来ない。海水で電波が減衰し水中まで届かない為だ。
しかし、この世界にはそれを解決するチートアイテムが存在する。デンシカの角を使った中継機だ。ダンジョンと地上の間で通信を可能とする装置は、水中での通信も可能としていたようだ。
恐らく迷い家に設置された中継機の効果を潜水艦の通信機器も受けたと思われる。完全に説明は出来ないが、理由に心当たりがある事を告げて安心させるべきだろう。
「恐らく、妾のスキルが原因じゃと思う。一応秘匿されておる故今ここで説明は出来ぬが、異変という訳では無い事は確かじゃ」
「流石は神使様です。浮上せずに位置確認が出来るなら発見される危険が低くなるので助かります。ありがとうございます!」
理由が判明し安堵した様子の艦長さんはお礼を言うと退室していった。
「玉藻お姉さん、皆も迷い家に招待する事は出来ないでしょうか」
「迷い家に滞在すれば快適性は格段に上がるからのぅ。関中佐に相談してみるかの」
迷い家生活を体験したら普通の潜水艦生活に戻れなくなるかもしれない。だけど、俺達だけ快適に過ごすのも良心が痛むよなぁ・・・




