第八百二十六話
事件は解決し、辻谷君も救出された。事件の犯人達は海軍の駆逐艦と付近の漁港から急行した漁船が海から掬い出している。
救い出しているではなく掬い出していると表現したのは、漁船が海上に浮かんだ犯人を網で掬っているからだ。金魚掬いならぬ犯人掬いだ。
「神使様、海軍の駆逐艦が護衛を申し出ておりますが・・・」
「信じたい所じゃが、抵抗を感じてしまうのぅ」
賊艦の連中以外の海軍はまともだと信じてやりたいが、警戒心を捨てる事が出来ない自分がいる。まあ、万が一の事態があっても全員を迷い家に収容して籠城という手段があるのだが。
「師団長、情報部より通達です。神使様と皇帝家の方々に宮内省から迎えが来るので、その場で迎えを待つようにとの事です」
「は?え?ちょっと待て。何で宮内省なんだ?あそこは船なんて持っていない筈だろう」
視察などで陛下が船を利用される場合民間の船を貸し切る事となる。なので皇族専用船という物は存在せず、借りた船がお召船と呼ばれるのだ。
「宮内省の船・・・多分あれだよなぁ」
「場所も近いし、あれしか考えられないわね。まさかお婆ちゃんは乗っていないと思うけど」
父さんと母さんはすぐに迎えに来る船が予想できたようだ。それはニックとアーシャ、舞も同じなようだし俺もあの艦しかないと思っている。
「し、師団長、海から何か浮かんできます!」
「水中から・・・あれは船なのか?」
厳島港の沖に浮上した潜水艦を見た師団の兵達は、海を注視しながらも俺達を囲んで海から隠すように動いた。
「案ずるな、あれは朕が祖国より乗ってきた潜水艦だ」
「恐らく、操艦しているのはお父様の部下達です。今は天皇家預かりになっているので敵ではありません」
「それではあの艦が通達にあった迎えの船でしょうか」
艦の上部を浮上させた潜水艦のハッチが開き、ニックの部下が姿を現した。彼は拡声器を構えると口上を述べた。
「海軍の駆逐艦に告ぐ。我々はニコライ陛下麾下の者だ。宮内省の命を受け神使様と皇帝陛下、皇女殿下をお迎えにあがった。短慮な行動を起こさぬ事を望む」
「潜水艦に告ぐ。艦隊司令部を通じて確認する。確認が取れるまでその場にて停船されたし」
「我らには海軍の指示を受ける義理もなければ義務もない。ただ受けた命を粛々と実行するのみだ。我らの作戦行動を阻害するならば、それは神使様とロシア皇族への攻撃と見做す」
随分と強気な発言だが、相手は呉に所属する駆逐艦だ。かつて自分達やその主を軟禁した組織なので私怨が入っていたとしても責められない。
「師団長、妾達は港に行かねばならぬ。送ってもらえるかえ?」
「はっ、勿論ですとも。これより神使様達を護衛し厳島港に向かう!」
急展開する状況に半ばフリーズしていた師団長は、俺の呼び掛けで再起動して港に向かう事となった。
「玉藻お姉ちゃん、潜水艦が帝国全土に放映されてるけど良いのかな」
「ニックとアーシャが潜水艦で亡命してきた事は特段隠しておる訳では無いからのぅ。誰が何処で隠しているかがバレなければ問題なかろう」
潜水艦に乗ってしまえば誰にも手出しされずに帝都に帰る事が出来る。取り敢えず一安心というところかな。




