第八百十七話
神社を出て待機していた車両に乗り込もうとした時、自称世界平和維持艦隊が発した声明が聞こえてきた。
『我々は帝国政府及び帝国陸軍が軟禁しているロシア帝国のニコライ皇帝陛下とアナスタシア皇女殿下の解放を要求する』
てっきり狙いは俺だと思っていたのだが、彼らの標的はニックとアーシャだった。予想外の事態に一瞬動きが止まる。
『現在、我ら大日本帝国は聡明なる今上陛下の下平和と繁栄を謳歌している。だが、世界はどうか。今だ大氾濫にて溢れたモンスターに怯え、文明は崩壊したままだ』
一応、彼らの言っている事は間違えていない。しかし、だからと言って武力で民間人を脅しニックとアーシャの身柄を要求するという考え方は理解出来ない。
『隣国ロシア帝国は主導者を失い、各地が連携も取れずにモンスターの脅威から身を守っている。今、ロシア帝国には臣民を導く存在が必要なのだ!』
「間違いじゃない。間違いじゃないが、ニックとアーシャちゃんの意思を完全に無視している。そんなの、許される筈が無い!」
「お父さんの言う通りよ。ロシアの人達はニックとアーシャちゃんに何をしてくれたの?利用しようと追い回していただけじゃない!」
ニックとアーシャからロシアでの生活を聞いていた父さんと母さんが憤る。俺も同じ意見だし、舞も多分そうだろう。
「師団長、車を海が見える場所に回してほしい。大恩ある大日本帝国の臣民を危険に晒したままで朕が逃げる訳にはいかぬ」
「皇帝陛下、それは容認出来ませぬ。我らの任務は神使様と皇帝陛下、皇女殿下の安全を確保する事にございます」
日本の臣民を危険に晒したくないというニックの気持ちは分かる。だが、ニックとアーシャの安全ご第一という師団長さんの意見も正しい。
『我らは八紘一宇の精神に基づき遍く世界に平和と繁栄を齎す為に立ち上がったのだ。その第一歩として隣国ロシア帝国を救う為、皇帝陛下と皇女殿下をロシア帝国にお連れするのだ』
統一政府が存在しないとはいえ、他国も絡む問題にされてしまうと俺達が勝手に動く訳にはいかなくなる。ここは上司に相談するのが最上か。
「中佐、三が日明け早々に済まぬな」
『玉藻様、世界平和維持軍とか言っている輩の件ですな。テレビは各局その話題一色ですよ』
車に搭載されているテレビをつけると、近い距離から駆逐艦を映した映像が映っていた。どうやら停船させられた船にテレビ局の中継班が乗っていたようだ。
『こちらから海軍に問い合わせたが、向こうも混乱しているようだった。どうやら一部の跳ね返りによる犯行らしいです』
「海軍としては艦を出して鎮圧したいじゃろうがのぅ・・・」
戦艦や巡洋艦といった大型艦は動かすのに時間がかかってしまう。前世と違い重油燃焼缶ではなく魔石機関を搭載しているが、それでも起動に時間が必要なのだ。
かと言って駆逐艦を出しても砲の性能は同じだ。海軍艦が賊艦を射程に入れると同時に賊艦も海軍艦を射程に入れる事になる。
それに、賊艦は民間船を人質に取る形となっている。被害を防ぐには賊艦に知られる前に長距離射撃の一撃で沈めなくてはならない。
『取り敢えず、我ら陸軍としては皇帝陛下と皇女殿下の身柄を渡すつもりはありません。神使様、お二方をよろしくお願い致します』
これで当面の方針は決まった。ニックとアーシャを守り抜く!
作者「車載テレビがあると言うことは、某放送局から受信料を請求されていると言う事に・・・」
玉藻「作者よ、そんな事を気にしている場合かえ?」




