第八百十五話 とあるマスコミ達の憤り
時は少々遡る。師団長が会見を終わらせ退出した後、残された記者達は自分達の要求に一切応えない師団長への不満を言い合っていた。
「何だあの態度は!我々を馬鹿にしているのか!」
「全くだ、臣民の知る権利を何と心得ているのか!」
知る権利という錦の御旗の前には、護衛の為の機密など中身が無くなったポケットティッシュの袋程度の価値しかない。そう信じている記者達の怒りは大きかった。
「大体、何故本人達が我らの前に出てこない?神の使いと煽てられて増長しているのではないか?」
「そうだな、一度我らの手で痛い目に遭わせてやる必要があるな」
一般臣民からすれば「お前らこそ何様のつもりだ?」と突っ込みたくなる会話だが、彼等は大真面目であった。
「まあ、この田舎で視察に行く先なんて限られる。どうせ厳島か呉だろう」
「神使様は陸軍士官でもあるからな。護衛も陸軍だし、海軍の施設には行かないだろう」
折角師団長が行き先を秘匿しても、マスコミは行き先を予想してしまっていた。そして彼等は動き出す。一部のマスコミは決め打ちをして厳島に移動し始めたのだ。
翌朝、物々しい警護に囲まれて神の使いとロマノフ家を乗せた車両が広島城を出た。南下して国道二号線で西進した車列を見て記者達は自分達の予想が当たっていたと思っていた。
しかし、車列が広島と厳島を結ぶ港を素通りし予想が外れたと分かると記者達は小さな混乱に陥った。第五師団に問い合わせようにも、彼らが答えてくれるとは思えなかった。
「おい、港を過ぎてもまだ西に向かっているぞ!」
「まさか宮島口から厳島に渡るのか?」
「おいおい、態々宮島口から渡る理由なんてあるか?広島港から渡れば半分の時間で済むのだぞ」
海上での時間を短くしたいという第五師団の思惑を読めず、混乱するマスコミ達。しかし車列が二号線から外れ宮島口の港に進路を変えた為厳島に渡ると確信出来た。
「なっ、何で態々宮島口から渡るんだよ!ややこしい事しやがって!」
「おい、俺達も渡るぞ。次の定期船はいつ出る!」
車列はチャーターしたカーフェリーに吸い込まれて行くが、マスコミは自前で渡る手段を見つけなければならない。
「次の船は満員?巫山戯るな、報道の自由を阻害する気か!」
「一般人なんてキャンセルさせろ!俺達はテレビ局の人間だぞ。一般人とは違うんだ!」
「おい、船のチケットを寄越せ。なに、嫌だと?俺を誰だと思ってるんだ!」
記者達は神使様一行を追う為に恫喝や脅迫と取れる言動まで行い、警察が出動する騒ぎにまで発展した。それでも彼等は臣民の知る権利を阻害する者が悪いと自分達を正当化していた。
「おい、俺達が入れないってどういう事だ!」
「ですから、事前に許可を得ていない取材はお断りしております」
「ならば今許可を出せ!」
先に厳島に渡っていた取材班は玉藻様達を追う事に成功していたが、厳島神社に入れず神社の神職や第五師団の兵と揉めていた。
「いいから入れろ!俺達は報道する使命があるんだ!」
「そうだそうだ、お前らに臣民の知る権利を阻害する権利は・・・おい、あれを見ろ!」
記者の一人が海を指さす。釣られて海を見た記者や神職、兵士が見たのは百二十七ミリ連装砲を備えた駆逐艦の姿だった。




