第八百十四話
船は無事に宮島港に到着したらしい。外の風景が見えないので振動が収まったのでそう判断したのたが、当たっていたようだ。
前方の壁が倒れ、車両を降ろす斜路となった。そこを順番に軍用車両が降りていく。俺達が乗った車両もそれに続き、後ろを守る車両が更に続いた。
「こっちも凄い人だかりだわ」
「多分テレビやSNSで玉藻ちゃんやアーシャちゃんが厳島に渡ったと知った人達ね」
本土に負けず劣らず集まっている人達を見て呆れる舞。俺も前世で偶然有名人に遭遇したらガン見してしまっていたから、彼らの事をどうこう言う資格はないかもしれない。
車は右手に海を眺めながら走る。広くない道なので細長く一直線になってしまう。護衛する立場としたら横からの攻撃に弱くなるので避けたい道だが、厳島神社に行くにはここを通るしかないのだ。
「到着しました。どうぞこちらへ」
前後の車両から降りてきた軍人が周囲を固める。安全を確認した後師団長さんがドアを開けて降車を促した。
厳島神社は一方通行になっている。海上の大鳥居に向かって右側の回廊から入り拝殿にて参拝、左側の回廊から退出する事になっている。
入り口に入ってすぐ、客神社の前に十人以上の人達が待っていた。先頭に立つ男性は白い袍と袴を身につけ冠を着用している。
「あれは礼装・・・いや、冠を着用しておるのじゃから正服じゃな」
「玉藻お姉ちゃん、神職の人達の制服って白い袍と赤い袴じゃないの?」
「神職の衣装は祭事の規模と身分で違うのじゃよ。正しい服と書く正服は、国家的な祭事や神社にとって最も重要な祭事で着用する最上級の衣装じゃ」
そして、白の正服は特級の男性神職しか身に着けられない筈。つまり、俺達を待ち受けているのは最高クラスの神職さんなのだ。
「ようこそお出でいただきました神使様。本職は当厳島神社の宮司を務めております岩田と申します。僭越ですが当厳島神社の案内を務めさせていただきます」
「特級の宮司殿自らの案内とは痛み入る。よしなに頼むぞえ」
宮司さんが頭を深々と下げると同時に、その後ろに控えていた神職の方々も頭を下げた。宮司さん、両親や舞、ニックとアーシャについては言及しなかったけど、この状況では仕方ないよね。
神職の方々に先導され、軍人の集団に周囲を囲まれ進む。本来ならば青い海に赤い柱や梁が映えて美しい景色を作り出しているのだろう。しかし、周囲を囲まれている現状ではそれを堪能する事は出来ない。
残念ではあるが、安全の確保には必要な事なので許容するしかない。風景を見たいと我儘を言って見通しを良くした結果狙撃などされたら、責任問題になってしまう。
前世では自分を守って負傷した護衛のお見舞いに行きたいと我儘を言い、結果暗殺されて世界大戦の引き金になった皇太子も存在したしね。守られる立場で我儘言ってはいけません!
作法に従い手水舎で手を清めて拝殿に向かう。ニックとアーシャには父さんと舞が手ほどきをしていた。
「神使様、こちらに。皆様もどうぞ」
宮司さんは本来参拝者が入れない幣殿に俺達を導いた。俺は兎も角、皆まで祭儀を行う神聖な場所に入ってしまって良いのかな?




