第八百十三話
広島城を出た車列は南下し、国道二号線を西に向かって走る。
「お姉ちゃん、マスコミが私達の行き先を予想してるよ」
「この辺りで有名な観光地といえば厳島神社くらいじゃからのぅ。西に向かった時点で予測されておるじゃろ」
一部のマスコミは厳島との定期便が出る港に先回りしているようだ。時折港からの中継も入っている。しかし、少ししてマスコミが慌てだした。
「あら、どうしたのかしら?」
「ああ、先の交差点を曲がると港に行くのじゃ。じゃが曲がらんかったで、行き先が違うと慌てておるのじゃな」
舞とスマホでテレビの中継を見ていたアーシャの疑問に答える。マスコミ達は画面の中で右往左往していた。
「行き先は厳島じゃなかったか?」
「厳島に定期便が出る港はもう一つあるのじゃよ。じゃが、そちらから行くより広島市内から船に乗る方が早い故、市内から船に乗ると決めつけておるのじゃろうな」
広島市内から宮島口まで車で一時間二十分程。更に船で十分かかるので、合計で一時間三十分必要になる。
しかし、広島市内からフェリーに乗ると所要時間は約四十五分。宮島口を使う場合の半分の時間で到着するのだ。
「お母さんも市内から船に乗ると思っていたわ。玉藻ちゃん、何で態々時間がかかる宮島口を使うのかしら?」
「恐らく、第五師団は時間よりも交通手段を重視したのじゃ。陸軍は海の上では万全の力を出せぬ。故にその時間が短い行程を選んだのじゃろう」
船上で自由が利かない時間が十分の行程と四十五分の行程。護衛する側としては総移動時間が増えたとしても前者を選ぶ方が安全だと判断したと思われる。
四十分程経ち、移動先が宮島口だとマスコミも気付き始めた。画面ではコメンテーターと呼ばれる人達が何故広島市内からではなく宮島口から船を使うのかと議論している。
宮島口から厳島に渡る船の乗り場は二箇所ある。民間の乗り場と国鉄が運営する乗り場だ。後者は鉄道の一部と見做されていたので、昔は青春18きっぷで乗船できた。
車列は国鉄の乗り場に向かい、そのまま待機していたフェリーに飲み込まれていった。船内に居た士官が近付き助手席に座る師団長に敬礼する。
「船内の確認は終了、異常はありません。すぐに出港出来ます」
「うむ、了解した。では可及的速やかに出港するよう命じてくれ」
素早く車両が固定されると、背後で車両の搬入口が閉じられる音がした。
「厳島には十分ほどで到着致します。船に移乗なされますか?」
一旦車から降りた師団長さんが扉を開けて船に降りるかどうかを聞いてきた。俺としては降りなくても良いと思うのだが、他の皆はどうだろうか。
「ふむ、降りてもまたすぐに戻るようになるだろうな」
「それなら、このまま車に居た方が良さそうですね」
ニックとアーシャの判断はこのまま残るというものだった。俺も同意見なので、当然異論を挟むような事はしない。
「妾も降りる必要は感じぬ。このままで良いじゃろう」
両親と舞も同意したので、俺達はこのまま車内で待機する事となった。海からの厳島神社を見たくもあったけど、それは次回のお楽しみという事で。
玉藻「次回・・・あるのかのぅ」




