第八百十二話
師団長さんが退出した後、俺達は夕食の時間まで自由に過ごす事が出来た。てっきり県の権力者や財界人が押し寄せてくる物かと覚悟していたので拍子抜けした。
後に判明したのだが、師団長さんと基地司令さんが全力で押し留めてくれていたそうだ。彼らの恨みを買っただろうに、広島基地の人達は俺達の体調を優先してくれたのだ。
夕食の時間になり豪奢な食堂で美味しい食事をいただいた。軍事施設にそぐわないこの豪華さも、かつて天皇陛下がいらした時の名残なのだろう。
ふと前世の広島城もこうだったのかと思いを馳せてしまったが、前世の広島城は原子爆弾で崩壊していたので確認出来なかったと気が付いた。
「お兄ちゃん、師団長さんが会見してるわよ」
「マスコミ達、しつこいわねぇ」
母さんが呆れているが、それは俺も同じだった。マスコミは俺やニック、アーシャを会見に出せとしつこく迫っていた。
移動で疲れているからと何度も拒否をしているにも拘らず、師団長さんに同じ事を要求するマスコミに殺意まで抱きそうになった。
俺達への会見を最後まで拒み通した上、明日の予定も話さなかった司令をマスコミはボロクソに叩く。自分達の要求が何一つ通らなかったので気に食わないのだろう。
「広報という点では厳島神社参りを公表するべきなのだろうけど、護衛の観点から言えば予定を公表するなんて論外なんだよな」
「狙ってる連中に待ち伏せして下さいと言うような物だからなぁ・・・」
俺が呟いた感想に父さんも同意する。司令の目的である地元の活性化の為には公表した方が良いのだろう。しかし、軍人として護衛対象に危害を加えられる可能性を低くする事を優先したという感じだろうか。
寝室は男性と女性で分けてもらった。俺と父さん、ニックの組と母さんと舞、アーシャの組だ。不測の事態が起こった場合、父さんとニックは俺が守り母さんとアーシャは舞が守る。
尻尾をモフりながら寝る事を目論んでいた女性陣をガッカリさせてしまったが、安全の為に我慢してもらった。
と言うか、俺の尻尾をモフりながら寝るのを常態化させないでね。俺の尻尾の所有権は俺にある事を忘れないでもらいたい。
ともあれ、かつて大本営であった広島城の奥深くで何かがある筈もなく。俺達は朝までぐっすりと熟睡する事が出来た。
そして昨夜と同じ食堂で朝食となったのだが、今朝は師団長さんも同席して予定を打ち合わせながらの食事会となった。
「本日は厳島神社に参拝していただく予定です。マスコミどもが付いてきて鬱陶しいと思いますが、近付けるような真似はさせないのでご寛恕下されば幸いです」
「マスコミは来るなと命じても来るだろう。朕らに近付かぬならそれで良い」
恐縮している師団長さんにニックが答える。例え来るなと言っても報道の自由を叫んで追い回すのが奴らだからね。
食事を終え少しの休憩を取った後、俺達は昨日の高級車に乗って厳島神社に向かった。周囲を固める軍用車両の更に外側にはカメラを構えた中継者が群がっているが、船で渡る時はどうするつもりなのかな。
優「俺達の次の便で追ってくるかな?」
作者「泳いで追ってきたら笑えるな」
流石にそれは無いか(笑)




