第ハ十一話
「お兄ちゃん、それが新しく作った大盾?」
「ああ、激レア武具の落とし亀の大盾だ」
大盾を受領した翌日、俺は朝食の後庭で大盾の訓練をしている。慣れていなくとも浅い階層ならば怪我をする可能性は低いと思うが、慢心して怪我をし家族に心配かけるなんて冗談じゃない。
攻撃を受ける動作だけでなくシールドバッシュと呼ばれる盾で相手を跳ね飛ばす動作や、鈍器のように振り回して打撃武器として使う動作も練習する。
「その盾、多分重いのよね?」
「ああ、結構な重量があるぞ。盾は重さで敵の攻撃を止めるという役目もあるからな。軽いのも良くないんだ。試しに持ってみるか?」
地面に置くと舞は嬉しそうに持ちてに手をかけた。力を入れて持とうとするも、大盾は少し動くだけで持ち上がる事は無かった。
「お、お兄ちゃん、よくこんな重い物を振り回せるわね。こんなに重いと思わなかったわ」
「これはヘラクレス症候群のお陰だな。父さんと母さんに感謝しないと」
この力が無ければ着せ替え人形も十全に活かす事が出来なかっただろう。力加減をする為の努力も色々な武具を扱う為の下地になっている。
「ふう、そろそろ次に移るとするか」
真夏の庭は気温が高い。運動して吹き出した汗を拭い、次の訓練に移る。大盾を構えて敵の攻撃に備える体勢から着せ替え人形を発動する。
「えっ、盾が消えて剣が二本・・・」
「両手で盾を持った状態から剣への移行は違和感あるな。これをスムーズに出来ないと隙が生まれてしまう」
左右の手に持った片手半剣を別々に振る。舞はそれを口を開けて眺めていた。
「ちょっ、お兄ちゃん、その剣はどうしたの?」
「ああ、この前上野のダンジョンで手に入れたんだ。これで攻撃力も防御力も格段に上がる」
素振りをして構えた体勢から着せ替え人形を発動。それぞれの手に剣を持った状態から右手だけで大盾を持った状態に移行し、やはり違和感を感じる。
「両手に剣を持ってるけど、双剣ってそんなに大きかったっけ?」
「普通の双剣は片手で扱えるよう小振りで軽い物が多いな。双剣は手数で攻める武器だから、扱いやすさを優先する場合が多いと思う」
「でも、さっきの剣は大きかったように見えたけど?」
俺は再び着せ替え人形を発動して双剣に持ち替える。それを鞘に収めると剣帯ごと外し舞に見せた。
「これは片手半剣という、片手でも両手でも扱える剣なんだ。普通は双剣にする代物じゃないけど、同じ剣が二本手に入ったから双剣として使う事にした」
「どれくらい凄いのかはネットで調べるとして、お兄ちゃんが凄いということだけは良くわかったわ」
舞に見守られながら剣の扱いと盾の扱い、それの換装を繰り返し練習していく。昼食を挟んで練習を続け、夕方になる頃には換装の戸惑いも殆ど無くなっていた。
「これなら明日からダンジョンで使えるかな」
「お兄ちゃんが強くなるのは嬉しいけど、無理はしないでね」
「ああ、まずは浅い階層で習熟してから潜る階層を増やしていくさ」
舞は飽きもせず一日中俺の訓練を眺めていた。数日留守にしていたので寂しかったのだろうか。これは夏休み中に埋め合わせをするべきかもしれない。
「そういえば、夏休みなのに構ってやれなかったな。今度一緒にお出かけするか?舞の行きたい所に遊びに行こう」
「良いの?やったー!」
ピョンピョンと跳ねてはしゃぐ舞。来年から中学生のお姉さんになるとは思えない行動だが、それだけ嬉しいのだろう。
「じゃあ、お姉ちゃんと一緒に染料タウン行きたい!」
「ショッピングモールか。勿論良いぞ・・・え、ちょっと待て?」
そして俺は反射的に承諾した事を後悔する羽目になるのであった。




