第八百九話
「神使様の御威光をお借りしても根本的な解決策とはならない事は重々承知しております。しかし、我らはそれに縋るしかない状況なのです」
「地元を・・・この広島を愛しておられるのですね」
「かつての戦では天皇陛下が滞在なされ本営となった広島が、このまま衰退するなど耐えられません!」
無骨な軍事施設という印象の区画と迎賓館並みの豪華さの区画。その違いに違和感があったけど、かつて天皇陛下が滞在なされた区画の名残だったのだ。
「参拝は構わぬが、マスコミを呼んで喧伝するのかえ?」
「いえ、連中は使いません。現在各社より取材申し込みと記者会見の要請が入っておりますが、全て断っております」
マスコミは俺達が広島城に入城した事をもう掴んでいるようだ。まあ、あれだけ派手に車列を並べて移動すればSNSで拡散されるよな。
「取材を許可せずとも、連中は勝手に報道してくれるでしょう。ならば正式に取材を受けて神使様の負担を増やす必要はありません」
マスコミの相手をせずに済むのは助かる。あいつらの相手をするのはダンジョンに潜るより疲れるからね。
「私達は良いとして、厳島神社はそれを了承しているのかしら?」
「勿論です。神使様をお迎え出来るのであれば一時的に一般参拝者を規制するのも構わないとの事です」
母さんの疑問に即答する師団長さん。まあ、神の眷属が訪れるなんて機会は早々無いだろうし、神社側としても望ましいという事か。
「それと海軍から神使様と皇帝陛下、皇女殿下への謁見を望むと連絡が入りまして・・・」
「ああ、皇帝陛下と皇女殿下に釈明と謝罪をしたいのじゃろうな」
俺の知る限り、ニックとアーシャは呉の施設から逃げ出して以降海軍との接触をしていない。つまり、あの事件に関して海軍からの直接の謝罪をされていないのだ。
そんな中二人が呉の近くまで来ている。海軍としてはこのチャンスを逃したくないと思うのは当然だろう。
「厳島神社に行く事がバレたら、海軍艦艇で護衛するとか言い出しそうだね」
「海賊からの護衛、ですか。奴等なら言いそうですが、いつの時代の話だと笑い飛ばしてやりますよ」
ニックの言葉に大笑いしながら応じる師団長さん。俺達も空気を読んで笑っていたが、昨日までその海賊の子孫に会っていて、しかも新たな戦力を手にしているとは口が裂けても言えないな。
ついでに言えば、母さんも俺も舞も海賊の子孫という事になる。師団長さん、目の前に海賊の末裔が居るので笑っている場合じゃないですよ。
「海軍との謁見は無し、だな。いつまでも引き摺るつもりは無いが、まだ時期尚早だろう」
「畏まりました、海軍にはその旨お伝え致します」
打ち合わせるべき事は言い終わったのか、師団長は深く礼をすると部屋から退出していった。身内だけになったので緊張が解けるのが自覚できた。
「虎の威を借る狐ならぬ、狐の威を借る人間じゃな」
変な事ではないし威を貸すくらい構わないが、これで成果が出たりしたら各地から勧誘が殺到したりしそうだな。
そうなったら面倒な事になりそうだけど、調整は関中佐に丸投げすれば良いか。持つべきは有能な上司様だね。




