第八百八話
「実は、神使様方を当地にお招きさせていただいたのは訳がありまして・・・神使様、明日厳島神社に参拝願う事は可能でございましょうか?」
「それは構わぬ、こちらから願いたい程じゃよ」
実は厳島神社に祀られている三女神様は宇迦之御魂神様の姉妹にあたる方達なのだ。と言っても少々特殊なお生まれの女神様達なので説明をば。
伊邪那岐命様より海を司るよう命じられた素戔嗚命様は伊邪那美命様に会いたいと泣き続け、海は荒れていた。
ある日限界が来た素戔嗚命様は伊邪那美命様の居る黄泉へと下る決意をし、姉である天照大御神様に挨拶をしようと天に登る。
警戒し武装して出迎えた天照大御神様と素戔嗚命様は口論となり、宇気比にて決着をつける事となる。素戔嗚命様の十拳剣から三人の女神様が、天照大御神様の勾玉から五人の男神様が生まれる。
自分の持ち物から女神が生まれたので自分の方が清らかだと勝利宣言した素戔嗚命様は天照大御神様の宮でやりたい放題。
イタズラで機織り部屋に皮を剥いだ馬を投げ込むと、それに驚いた機織り女が機織り機の部品で負傷し命を落とす。それを嘆いた天照大御神様が天岩戸に引きこもるという有名な事件が起きるのだ。
厳島神社はその宇気比で生まれた三女神を祀っている。本社は福岡の宗像大社なので分け御霊となっている。
「素戔嗚命様って・・・」
「まあ、神々などそんな存在じゃよ。西洋の神々に比べればまだマシじゃと思うがのぅ」
子供を愛するあまり子供を使って夫を消そうとする女神様とか、夫の浮気相手を牛に変えて追放する女神様とか居るしね。
「して、一応妾を厳島神社に参拝させる理由を聞いておこうかのぅ」
「はっ、それはこの地の衰退が原因であります」
師団長によると、広島から流出する者が増えており対策を打つ必要があるのだとか。若者が大阪や帝都に出ていく者が増え、移住してくる者は少ないとの事。
「観光などで人を呼ぼうにも、有名な観光地といえばこの広島城と厳島神社くらいしかありません。新たな目玉を、という計画もあるにはあるのですが期待は出来ないのです」
「その新たな目玉とやらはどんな物なのだ?」
「近々退役予定の戦艦大和を記念艦として保存、内部見学を可能とし、それに付随した施設を作る計画でした」
ニックの問いに対する答えを聞いて、俺達は期待出来ないと言う理由がすぐに理解出来た。と言うか、実現出来ない理由と言うべきか。
海軍はニックとアーシャの騒動で顰蹙を買い冷遇されている。そんな中で新造戦艦の予算案など通る筈もない。
となれば現役艦を退役させると戦力が落ちるため、改装しながら使い続けるしかなくなる。なので大和の退役は遠のくという事になる。
「流石に艦齢八十歳は酷使しすぎじゃな。戦艦同士の砲撃戦など出来るのか甚だ疑問じゃな」
「だから焦って朕とアナスタシアを軟禁するという暴挙に出たのだな」
新しい戦艦を切望する気持ちは分かるけど、やって良い事と悪い事の区別はちゃんとつけないとね。




