第八百七話
尻尾をモフられ続ける事一時間余り。車は広島城に無事入城する事が出来た。大手門前には大勢の兵が並び、先頭には礼装を着た将官が立っている。車は将官のすぐ前で停車し、岡山の基地司令が降りると互いに敬礼を行った。
「第十七師団は神使様及びロシア帝国皇帝陛下と皇女殿下を高松より護衛、現時点をもって任務を第五師団に引き継ぎます」
「我ら第五師団は第十七師団より神使様及びロシア帝国皇帝陛下と皇女殿下の護衛任務を引き継ぎます」
どうやら出迎えてくれた将官は広島に駐留する第五師団の師団長さんのようだ。彼は引き継ぎを終えると車の扉を恭しく開く。
初めに舞が降車し、念の為慣性制御で防御を行う。そしてニックとアーシャが降り立つ。目立つ銀髪の父娘を見た兵達が緊張したのがわかる。
「あっ、あれが神使様・・・」
「なんて神々しいお姿!」
ロマノフ父娘に続いて俺が降車すると兵達の間からざわめきが起こり、次いで一斉に膝をついて平伏しだした。
当然周囲の警戒など出来ない状態なので護衛としては失格なのだが、抑えているとはいえ神気をまともに浴びれば仕方あるまい。
こうなる事が予想出来ていたので舞が先に降りて防御を行っているのだ。そんな中父さんと母さんも降車する。
「出迎え、大義である。じゃが、その状態では何もできぬ。頭を上げるがよい」
「神使様をこの地にお迎え出来た事、望外の喜びでございます。そして皇帝陛下、皇女殿下。近くに居ながら我らの手にてお救い出来なかった事、心からお詫び申し上げます」
口上を述べた師団長さん(仮)は再び頭を下げ、居並ぶ兵士達もそれに倣った。城郭内に居たニックとアーシャを救えなかった事をかなり後悔しているようだ。
「朕は追手から逃れる為に隠れておった。存在すら知らぬ相手を助けるなど無理というもの。そなたらの気持ちは嬉しいが、気に病む必要はない」
「お父様の言う通りです。しかし、そなたらの思いは確かに受け取りました」
「なんと寛容な・・・この村松、そのお言葉を一生の宝とさせていただきます」
赦しを得た村松第五師団長(仮)と師団員の方々は立ち上がると直立して第十七師団の車列に正対した。
「それでは神使様、我らは帰投致します」
「うむ、世話になったのう。そなたらの献身、決して忘れはせぬ」
岡山の人達には帝都から来た時と今と、親切に世話をしてくれた。もし彼等が困る事があり俺が力になれるなら、その時は全力で助力をしよう。
「それでは皆様こちらへ。ささやかではありますが、歓迎の席を用意させていただきました」
周囲を兵に囲まれ本丸に入る。内部は現役の軍事施設らしく質実剛健といった感じだったが、奥の区画からは装飾が完全に変化していた。
通された部屋は迎賓館の一室だと言われても信じてしまう程の豪華さだ。村松師団長(仮)に勧められソファーに座る。テーブルには軽食が用意されていた。
落ち着いたところで自己紹介を行う。予想した通り、この村松中将が第五師団の団長さんだった。




