第八百六話
「ねえお兄ちゃん、軍人さん達って男の人が多いのよね?」
「そうだな、女性も居るとは思うが男性の方が多いと思うぞ」
軍に男性が多いのは、女性差別という訳ではなくて力仕事が軍の仕事に多いからだ。機械化が進んでいるとはいえ、まだ体力に依存する仕事が多い事は否めない。
「それならお兄ちゃんが玉藻お姉ちゃんになった方が喜ばれると思うわ」
俺も男なので、舞の言葉に一理あると納得してしまう。逆の立場だったら、出迎える相手が男なのと狐耳と尻尾装備の巫女さんなのでは後者の方が嬉しいと断言出来る。
「そうだな。三が日に余計な仕事をさせるのだし、労を労う意味でサービスするのも良いか」
同じ陸軍の仲間でもある。仕事を増やしたお偉いさんというヘイトを少しでも減らす努力はしておいて損はないだろう。
「着いてから変わるよりも、今から変わっておいた方が良いわよ」
「着いてからでも今からでも構わないけど、今だと尻尾が邪魔にならないか?」
「玉藻お姉ちゃんの尻尾が邪魔になるなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないわ」
大きな高級車といえど、六人も乗れば車内に余裕は多くない。そこに嵩張る尻尾が五本も加われば、車内の空間を圧迫する事となる。しかし母さんとアーシャは舞の提案に賛成し、父さんとニックも反対の意思を示さなかった。
「それじゃあ玉藻に変わるよ・・・って、いつもの事ながらブレないのぅ」
俺が玉藻に変わるなり尻尾を確保する女性陣。母さんと舞が二本づつ抱き、アーシャが一本の尻尾を抱いている。
「舞、そなた尻尾が目的で玉藻となる事を提案したじゃろう?」
「そ、そんな事は・・・」
俺から目を逸らして尻尾をモフる事に集中する舞。限りなく黒に近いグレーだと思うのは俺だけだろうか。
「高松では出歩けなかったが、広島はどうだろうな」
「正式に陸軍が護衛に付くのなら、事前に頼んでおけばある程度は外出も出来るだろう。広島の観光地はどこがあったかな」
尻尾をモフれない父さんとニックは、広島での行動について話し合っている。広島の観光地か。すぐに思い浮かぶのは広島城と厳島神社かな。
第二次大戦が無かったので、当然原爆も投下されていない。なので原爆ドームも平和記念公園もこの世界の広島には存在していない。
大和は現在でも現役で就航している為大和ミュージアムも存在しないし、海軍のままなので海上自衛隊呉資料館も無いだろう。
大体、海上自衛隊呉資料館は潜水艦や掃海に関する展示が主力だ。潜水艦が運用されておらず、本格的な海戦が行われていないこの世界でそれらの資料を持つ国はどこにも存在しない。
「妾に思いつくのは広島城と厳島神社くらいじゃな。広島城が目的地じゃし、見学に出るとしたら厳島神社くらいかのぅ」
後は前に来た時に見学出来なかった縮景園くらいかな。広島って、前世に比べると観光地が少ないな。ニックやアーシャを呼んだのって、街興しの材料にする思惑もあったりして。
まさか広島城に着いたら県知事や県議会の議員、商工会のお偉いさんが勢揃いしてるなんて事は無いよね。




