第八百五話
「司令自ら出張っていただけるとは恐縮です」
「何をおっしゃいます、神使様や皇族の方々を護衛する栄えある任務を部下に任せるなどあり得ません。それに、第五師団がここまでお迎えに来るとゴネたのを説き伏せたのですよ」
どうやら広島の師団がここまで護衛に来ると言うのを岡山の師団が説得して広島までの護衛を勝ち取ったらしい。
前世の価値を引き摺っている俺からすれば正月に余計な任務をさせられるのは避けたいと考えてしまうのだが、彼等は逆なようだ。
周囲を屈強な軍人に囲まれてホームに上がる。切符を買っていないが改札をそのまま通ってしまった。その辺も予め手配済との事だ。
程なくしてやって来た列車に乗り込む。一車両分の指定席を買い占めているそうで、車内は完全に俺達の貸し切りだ。隣の車両へのドアには兵が二人ついて一般客が間違えて入れないようにしている。
今日も穏やかな瀬戸内海を渡り、列車は児島に到着した。そして山間部を越えて定刻通りに岡山駅に着く。
ホームでは多くの兵士が警戒を行なっていて、その様子を一般客が何事かと注目していた。視線が集まる中、車両から降りてホームに移動する。
「神使様、皇帝陛下、皇女殿下。本日は当岡山駅をご利用いただき誠にありがとうございます」
「騒がせてしまい申し訳ない。我々の移動に対する協力に感謝します」
ホームに降り立つと、白い制服を着た壮年の男性の挨拶を受けた。この岡山駅の駅長さんだそうだ。それらしい返答をし、兵に囲まれて改札口へと移動する。
駅前には大型の高級車と複数の軍用車両が待機していた。司令自らが高級車の扉を開けてエスコートしてくれた。
滝本家とロマノフ家の全員が乗れる高級車に乗り込み、扉を閉めた司令はその車の助手席に座った。前後左右を軍用車両に囲まれて高級車は走り出す。
「お兄ちゃん、もうSNSに画像が上がってるよ」
「おおっ、本当だ」
高松駅と岡山駅での様子が一般客に撮影されSNSに上がっていた。正月に何事かと憶測が飛び交ったが、兵の間に写った俺達の姿でネット民はすぐに真実に辿り着いた。
「これはマスコミが追いかけてくるかな?」
「いや、SNSには岡山駅から軍用車両に警護されて走り去った所までしか出ていないみたいだ。追ってくるのは難しいと思う」
車列は高速道路に入り西に向かって走っている。マスコミがSNSを見て追おうとしても、車列が大阪方面に向かったのか広島方面に向かったのかを断定出来ていない筈だ。
この車列は目立つのでじきに目撃情報が出るとは思うが、西に向かっているとバレた所で何処で高速道路を降りるのかまでは分かるまい。
マスコミが車両を出して追ってきたとしても、岡山から広島までの所要時間は二時間ちょい。追いついて来る頃には広島に着いているだろうし、そのまま広島城に入城してしまえば中まで追っては来れないだろう。
「遅かれ早かれ俺達が広島に滞在する事はバレるだろうから、対応は広島の司令さんと相談することになるね」
向こうの招きでの来訪なのだから、マスコミの対応を丸投げしてもバチは当たらないよね。




