第八百四話
広島に常駐する第五師団の人達は自分達の地元で皇帝陛下と皇女殿下の救出劇が繰り広げられていた事を後で知り大層驚いたそうだ。
暗闘の舞台が師団が居る広島城の敷地内だったのだ。驚きも一入だったのだろう。そして自分達が助力出来なかった事を悔やんでいたそうだ。
もし機会があったなら、皇帝陛下と皇女殿下にお詫びをしたい。広島の基地司令と第五師団長は常々そう零しているとの事。
「あれは気付けという方が無理な話だ。気にする必要は無かろうに」
「優お兄さんが気付いてくれたのが奇跡だったのです。いえ、運命でした」
第五師団も海軍が町中で異常な動きをしていたという情報は掴んでいただろう。だが、ロシア帝国の皇帝陛下と皇女殿下が密かに亡命していて刺客に襲われているなんて予想しろというのは無理な話だ。
広島に行く事に異論は出なかった為、明日朝に移動する旨を伝えた。移動は高松から快速電車を使用する。
「護衛の部隊をうちから高松に待機させます。香川県警とは高松駅で護衛を外れて貰いましょう。県警への通達もこちらでやっておきます」
「それは助かります。一応こちらからも現場責任者に通達はしておきます」
司令から県警へ、俺から森川警視へ明日の予定を伝えておけば、県警と現場で連絡の不備があったとしても問題なく行動できる。
司令との通話を切った後、森川警視に伝えに行こうとしたが父さんに止められた。
「優、森川警視への連絡は父さんが行こう。神使様が行くより警視の心理的負担は少ないだろう。それに、その状態のアーシャちゃんと一緒に行く訳にもいかないだろう?」
アーシャはまだ俺に引っ付いている。まさかこの状態が常態化したりしないよね?
取り敢えず明日朝本州に移動する事を父さんが森川警視とひいお婆ちゃんに伝えてくれた。ひいお婆ちゃんは残念そうにしていたそうだけど、滞在を延ばして香川県警の負担を増やす訳にもいかない。
夕食にあんもち雑煮やしっぽくうどんをいただき、ニックとアーシャに迷い家へ移動してもらった。ホテルの上階だった昨夜と違い、安全が担保出来ていない為だ。
県警の警備を信用していない訳では無いが、トンデモなスキルで警備を掻い潜られる可能性は否定出来ない。
昨夜のように鉄筋コンクリート製のホテルの上階ならば侵入は容易ではないが、この家は木造平屋建てだ。
結果を言えば何事もなく朝を迎えたのだが、それは結果論に過ぎない。無事に終わり対策が無駄になるのは対策せずに惨事を起こすより余程良い。
ハマチや海老、タコなどの海産物やローストビーフが入ったおせちをいただいた後移動する。オリーブ牛とかオリーブハマチなんて初めて聞いたけど、香川では知られた食材なのだろうか。
高松駅に行くと岡山基地から来た人達が整列していた。周囲の人達が何事かと遠巻きにして注目している。
「神使様、お迎えにあがりました。森川警視、ご苦労様。護衛の任は我々が引き継ぎます」
「了解です。香川県警は現時点をもって神使様及び皇帝陛下と皇女殿下の護衛任務を帝国陸軍第十七師団に引き継ぎます」
県警と陸軍で引き継が行われ、正式に俺達の護衛は陸軍の担当となった。それは予定通りなのだけど、基地司令自ら来てしまって大丈夫なの?




