第八百三話
さて困った。動けば県警の護衛がゾロゾロ着いてきて観光どころではない。かと言って、他県に出て香川県警の勢力下から出てもその県警の護衛が付くだけである。
「本州に戻っても岡山県警の護衛が付くだけだろうしなぁ」
「間違いなく香川県警から岡山県警に連絡されるわね」
県警の護衛を断る口実があれば良いのだが。皆を迷い家に入れて玉藻の空歩で移動すれば県警を振り切る事が出来るが、それはそれで騒ぎになるのが目に見えている。
「ねえお兄ちゃん、県警の護衛に代わる護衛が居れば断る口実になるわよね?」
「そうだな。だが、帝都から呼ぶなんてしたくないしなぁ」
関中佐にお願いすれば都合をつけてくれる可能性は高い。しかし、神使の肩書を傘にきてそんな我儘を通そうとは思わない。
「来る時にお世話になった岡山基地の司令さんに相談してみたら?」
「ああ、その手があったか」
岡山基地に降り立った時、舞は迷い家に居たので基地司令さんとは会っていない。しかし行程は事前に話してあったので、舞も岡山基地でお世話になった事は知っている。
「舞、悪いが俺のスマホを取ってくれ」
「これだね。はい、お兄ちゃん」
俺の正面にはアーシャが引っ付いている為、座った体勢から動く事が出来ないのだ。なので舞にスマホを取ってもらい岡山基地に連絡を入れる。
「司令、正月にすいません滝本中尉です。実はお願いがありまして・・・」
俺は司令にここまでの経緯を説明した。お忍びで四国に渡った事。曾祖母と合流し皇帝陛下の部下達と再会を果たした事。散歩中半グレに絡まれ警察を呼んだ為県警の護衛が付いた事。
「このままでは自由に動けません。他県に渡っても香川県警からそこの県警に連絡が行くでしょう。なので岡山に戻り、陸軍の護衛を頼めば県警から逃れられると思うのです」
「神使様、警察を呼ぶ前に善通寺を呼んでいただきたかったですな」
「あっ、そうか・・・」
善通寺とは金毘羅様の北側にある市の名前だ。そこには陸軍の基地があるので、県警の前に陸軍善通寺基地を頼れば良かったのだ。
「犯罪者の引き渡しは警察に、という固定観念に囚われていましたね」
「県警の護衛が付いた今では陸軍が護衛するからとお払い箱には出来んでしょう。こちらに戻るタイミングで我らに護衛を切り替えるのが良いかと」
善通寺から陸軍呼ぶから県警は用済みです。なんてやったら県警の面子は丸潰れになってしまう。香川に居る間はこのまま県警の護衛を受けるしかない。
「では明日列車で岡山駅に向かいますので、陛下と殿下の護衛を頼みます」
「神使様も護衛対象ですからね?国でもトップクラスの貴人という自覚をお持ち下さい」
司令さんに窘められてしまったが、そう簡単に意識は変わる物ではない。前世と今世で六十年以上平民だったのだ。その癖はそうそう直りはしない。
「そうそう、もし神使様や皇帝陛下にお時間があるようでしたら広島まで足を運んでいただけませんか?」
「えっ、広島ですか?」
いきなりの提案に素で驚いてしまった。何故に広島に寄るなんて提案が出てくるのだろうか。取り敢えず頬を擦りつけて甘えるアーシャを見て心を落ち着けようか。




