第八百一話
「少々悪酔いしている人が居るようだな。少し酔いを覚ましてやろうか」
俺は再び玉藻になると抑えた神力を放つ。いきなりの圧に驚いた親族達が一斉に視線を俺に向けた。
「お主ら、悪酔いしておるようじゃな。妾の名声を利用するのは構わぬ、特に止めはせぬよ。じゃがな、それで何が起ころうとも助けもせぬぞ?」
「助けぬって、何が起こるちゅうのじゃ」
「妾の親族じゃと喧伝すれば、有象無象が集まるじゃろう。じゃがな、集まるのが善人ばかりとは限らぬという事じゃ」
親族達は俺が言いたい事を予測しかねているようだ。自分達に都合が良い事しか考えられない、破滅する輩の思考パターンだな。
「そなたらが妾を利用しようとするのと同じように、そなたらを利用しようとする輩も集ってくるという事じゃ。それが詐欺師程度なら良いのじゃがな」
「そうね、華族が絡んでくるととても厄介よね」
母さんがため息をついて詐欺師より厄介な存在を告げる。うちも被害にあったからなぁ。某子爵とか。
「妾に近付きたい貴族家に無理難題を背負わされる、なんて事もあるじゃろうな。そして出来なかった責を咎めるじゃろう」
「いくら貴族でも、そんな横暴な真似は・・・」
「貴族の子息が起こした事故の責任を、偶々通りかかって救助作業をした俺達に押し付けた貴族が居たが?」
予想されるトラブルを告げた俺に対してそんな事はあり得ないだろうと楽観視する親族に、父さんが過去にあった実例をあげて黙らせた。
「他にも皇帝陛下の件で妾を恨む海軍や、帝国のダンジョン攻略が進む事を阻みたい他国の間者が妾に対する人質とするやもしれぬ」
「そ、そんなドラマのような事が現実になると?」
「人体実験を行い強化人間を作り出そうなどという企みよりは、余程現実的じゃと妾は思うがの」
前世の特撮ヒーローもののような事件がこの世界の日本では現実に起きたのだ。それに比べれば十分に起き得る事態だと思うぞ。
「窓の外を見れば現実も見えるじゃろう。あのような警備が必要と警察が判断する理由、それが答えじゃな」
標的に手を出せなければ身近な人間を標的にする。犯罪者の常套手段だ。しかし俺の家族には陸軍の庇護があるので手を出せない。そこに親族を名乗る者が居たらどうなるか。
「陸軍も宮内省も、妾の関係者となったそなたらの安全を護りはするじゃろう。じゃがな、自ら危険を呼び込む愚か者の面倒を見る程甘くはないぞえ」
普通に暮らしていて危険な目に遭うのなら助けもしよう。しかし、自分で危険を呼び込むならばその限りではない。
「これまで接点も無かった優を利用するなど思わぬ事じゃ。お主らも疲れておるじゃろう。部屋に案内するで休むがええ」
一転してお通夜状態になった広間を出て今夜泊まる部屋に案内してもらう。
「普段はまともなのじゃがな。神使様が親族というニュースに驚き、ちと浮かれとるようじゃ。儂が目を光らせるけん、容赦してくれんかのぅ」
「咎めるつもりはありませんよ。だけど、下手に俺の親族だと喧伝すれば危険な状態になりかねない。それだけ自覚してもらえれば十分です」
父さんの方の親族は全員安全な場所(笑)に居るから、危険な目に遭うとしたらこっちの親族だけだからね。




