第七十九話
作者「君、四十一話で尋問するだけのチョイ役だった筈だよな?」
関中佐「作者よ、細かい事は気にするな。予定は未定と言うだろう?」
仕上がりに満足したので剣を腰に差した人形を呼び出し盾も持たせる。持ち帰るのも手ぶらで良いのだから、このスキルは本当にありがたい。
「そういえば、甲羅を持ち帰る時に人形に持たせておけば楽に帰れたんじゃないか?」
「この人形、着衣と装備しか預けられないんですよ。落とし亀の甲羅は加工前だと素材なので持たせられません」
宮野さんの疑問に答えると、関中佐が残念そうな顔をした。疑似アイテムボックスとしての運用を期待したのだろう。
「そうか、それは残念だが武器をいくつも持ち込めて瞬時に入れ替え出来るだけでも破格なスキルだな。滝本君ならすぐに活躍して有名になるだろう」
「有名、というだけならもうなってるがな。あの放送や落とし亀の甲羅を持ち帰った事でかなり知られてるだろう」
宮野さんの言葉を白鳥さんが混ぜっ返す。甲羅の件は玉藻騒動で忘れられてる感があるが、それが落ち着いた時に再燃しないという保証はない。
「勧誘が鬱陶しいので有名になんてなりたくないんですけどね」
「その言葉、何としてでも名を売ろうとしている配信者達が聞いたらどんな顔をするやら」
「全くだ。有名になりたい奴は名が売れず、有名になりたくない君の名が売れてる。物欲センサーは名声も担当してるのか?」
宮野さんと白鳥さんの掛け合いに一同揃って爆笑した。もしそうなら、物欲センサー業界は結構ブラックな勤務状態なのかもしれない。
「それではそろそろお暇します。関中佐、白鳥さん、宮野さん、ありがとうございました」
「滝本君、軍絡みで困った事があったら力になる。情報部はあちこちに顔が利くからな」
「俺も出来るだけ力になろう。君のような前途有望な若者には大成してもらわないとな」
「俺は権力は無いが、大盾と剣のメンテは任せてくれ」
三人がそれぞれありがたい言葉をかけてくれた。でも、残念ながら宮野さんにメンテでお世話になる事は無いだろう。しかし、ここでそこまで言うのは躊躇われた。
人形に自動修復機能がある事を告げれば、俺がやったような複製する使い方にすぐ思い至るだろう。そうなると着せ替え人形の利用価値が高くなりすぎる。
俺が目指す立ち位置は、軍が欲しいと思う有用な人間だが替えがききリスクを負ってまで入手する程ではないというものだ。
「ありがとうございます。研鑽を重ねて皆さんのご期待に沿えるよう努力していきます」
俺は一礼して部屋を出た。情報部の中佐がこの場に来ていたのは予想外だったが、関中佐には気に入られたようだし悪いようにはならないだろう。連絡先もしっかりと交換した。いざという時には頼らせてもらう。
「おい、どうだった?」
「五階層から九階層はダメだった」
「一階層から四階層にも目撃情報はない。何処に消えやがったんだ・・・」
あれから五日経っているというのに、まだ玉藻を諦めていないらしい。徒労に終わるというのに、一体いつまで探すのやら。
ガード下にあった本格インドカレーのお店でビーフカレーとナンを食べ、腹ごなしに不忍池のほとりを散策する。弁財天に参って公園口改札から駅に入った。
昼過ぎの電車は空いていて余裕で座る事が出来た。トラブルもなく家に帰り着く。
明日からは大盾と双剣の練習をしよう。大盾から双剣、双剣から大盾への換装をスムーズに行いスムーズに運用できるように慣らさなければ。




