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第七十八話

「鞘は気に入って貰えたようで何より。では本命の大盾だ」


 宮野さんに渡された大盾をチェックするため席を立つ。流石にこれを座ったままチェックするのは難しい。


「握りの位置も良いですし、巻いてある革で滑りにくくなってます。これは扱い易そうですね」


「合格点を貰えたようだな。そうだ、剣の方も抜いて確認してくれ」


 宮野さんの提案を受けて、俺は白鳥さんに視線を向ける。ギルド長と軍の中佐が居る部屋で武器を抜くのはマズイと判断しているからだ。


「俺は構わない。関中佐はどうだ?」


「勿論構わないさ。君が我々に害をなすなんて欠片も思っていないからね」


 お偉いさん二人の了承を得たので応接セットから少し離れて剣を差す。剣帯をまき、左右の腰に片手半剣を吊るした。


「おいおい、二本とも着けるのかよ」


 白鳥さんの呟きを余所に両方の剣を同時に抜く。そのまま剣舞を舞うように剣を操った。ヘラクレス症候群により齎された力は剣の重さを物ともしなかった。


「片手半剣を双剣のように軽々と・・・何でこんな逸材がスカウトされてないんだよ」


「確か戦闘系スキルは無かったよな?双剣や二刀流のスキルも無しにこんな芸当が出来るのか・・・」


 幼い頃から修練してきた日舞の効果は伊達じゃない。扇子を剣に持ち替えても、剣を自分の腕の延長のように自在に扱う事が出来た。


「剣は問題なく扱えそうです。盾は実戦で試す事にしますよ」


 剣を鞘に納め剣帯を外す。この剣は鋼鉄なのでいずれ買い替えが必要になるだろうが、暫くはメインウェポンとして活躍してくれるだろう。


「いやはや、戦闘系スキルではないのに戦闘に有効なスキル持ちが居ると聞いて会いに来たのに、スキル抜きでスカウトしたくなる逸材とは」


「その大盾と双剣を瞬時に切り替えられるんだろ、こりゃ完全にチートじゃねえか」


 関中佐と白鳥さんは半ば呆れながら呟く。俺も白鳥さんの意見には全面的に賛成だ。着せ替え人形は名前と裏腹に完全なぶっ壊れスキルだよ。


「滝本君、出来るならあのスキルで装備する所を見せて貰っても良いかな?」


「ええ、勿論構いませんとも」


 宮野さんのリクエストに答えて着せ替え人形を呼び出す。まずはシャツにジーパン、籠手を装備したダンジョン向けの人形だ。


「それが着せ替え人形というスキルか。名前も効果も一見ダンジョン攻略には不向きなスキルだが・・・」


「こうして武具を装備させようと思うだけで人形に装備させられます」


 俺が双剣を装備しろと念じた瞬間、俺の手にあった双剣は着せ替え人形の腰に装備されていた。それを確認して落とし亀の大盾を手に持つ。


「人形が装備した物は俺が念じれば瞬時に換装出来るようになります。こんなふうに」


 俺の言葉が終わった瞬間、着せ替え人形はラフな服装に大盾を持っていた。対して俺は着せ替え人形が着ていた服や装備を纏っている。


「は、ははっ、こんなのアリか?大盾を持っていた探索者が一瞬で双剣に持ち替えるって・・・相対する敵には悪夢でしかないじゃないか」


「今は双剣と大盾だが、武器の種類を増やしたら・・・実際にこの目で見たら凄さがよく分かるな」


 驚く二人の気持ちはよくわかる。俺もそういうスキルだと理解はしていたが、実際にこうやって二つの武具を持ち替えてみるとその威力が実感できる。


「滝本君はまだ中学二年生だったね。進路は考えているのかな?」


「取り敢えず探索者養成学校に入って、その後は職業探索者になるか軍に志願するかと考えてます」


 将来軍に入る事も視野に入れていると聞き、関中佐は僅かに顔を綻ばせた。玉藻ではない滝本優も軍に売り込めたようで何よりだった。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] この手の小説で軍を指向するのは非常に珍しいですけれど、実際一番手堅いとは思いますね。 自由自由と安易に選択するもんじゃないよと思います。
[一言] リップサービスなんかもしらんけど、自由に探索出来ない軍はダメじゃないかなあ
[一言] 将来的には関中佐が連絡窓口になるのかな? 或いは直属の上司になっても良いかもね この人なら柔軟な対応してくれそう その代わり部下が苦労させられそうだけど 着せ替え人形スキル、神様が「これで…
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