第七百五十九話
追加の天ぷらをお供えし、念話も切れてどうしょうかと途方に暮れていると宇迦之御魂神様から御下問が下った。
『玉藻よ、そちの迷い家にちと干渉するが構わぬか?』
「干渉で御座いますか?現在迷い家には数名の人間が滞在しております。彼らに影響があるようでしたら一時的に避難させますが」
人間の世界には干渉しない神様が態々干渉してくると仰っているのだ。これは必要不可欠に違いない。しかし、だからと言って家族やニック、アーシャに何かがあったら困る。
ダンジョンの中で迷い家の外に出すのは危険だが、三十八階層に戻る渦の所ならば安全だろう。舞の慣性制御もあるし、何とかなると思いたい。
『迷い家自体に何かをするという訳では無い。じゃが、社の近くに誰かおるならば玉藻の背後に隠れた方が良いかもしれぬ』
「承知しました。暫しお時間をいただきます」
何をするかは知らないが、母さん達には建屋に入ってもらった方が良いかもしれないな。三人にそれを話したが、皆残る事を希望した。
「宇迦之御魂神様が警告したのじゃ。危険があるやもしれぬのじゃぞ」
「でも、玉藻お姉ちゃんの後ろなら大丈夫なのよね?」
「神様が何かしらするのを見るなんて、一生に一度も無い事よ。出来ればこの目で拝見したいわ」
舞も母さんも建屋に戻ろうとしない。そうなるとアーシャも一人で戻るという選択をする筈もない。あまり時間をかけて宇迦之御魂神様を待たせる訳にもいかないので俺が折れる事となった。
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
『なんの、この程度は待つうちには入らぬ。では玉藻よ、備えよ!』
お社が眩い光に包まれて強い神力を放つ。俺は尻尾を広げて後ろにいる三人がその影に入るようにして庇った。
「くっ、やはり何としても建屋に下がらせるべきであった・・・くああぉぁぁっ!」
必死に振り注ぐ神力を中和していたのだが、途中から少し楽になったので峠を越えたのだろう。神力が次第に落ち着いていき光が小さくなっていく。
それでも完全に神力が消えていないので三人への護りを止める事は出来ない。そちらにも気を配りながらお社を確認すると、三つの人影がお社の前に立っていた。
「おぉう、可能じゃと思うておったが、いざ成功すると嬉しいものじゃな」
「思兼よ、ちとはしゃぎ過ぎじゃ。じゃが、その気持も分からぬではない。前に神界から出たのは如何ほど昔であったじゃろうか」
線が細い男性が嬉しそうに言いながら辺りを見回し、妙齢の美人さんがそれを窘める。そして残った一人の偉丈夫が俺達に話しかけた。
「玉藻よ、久しいな。偶々娘を訪ねておったので便乗してもうた。思いの籠った料理、美味かったぞ」
「恐悦至極に存じます。そして長の不義理をお詫び致します、素戔嗚命様」
俺は即座に土下座して素戔嗚命様への参拝をしていなかった事を詫びた。母さんと舞、アーシャも慌てて俺に倣い平伏していた。
宇迦之御魂神様、素戔嗚命様、八意思兼命様。三柱の神々がまさかの御降臨されたのでであった。




