第七百五十一話
アーシャを背負って千里眼を使って貰っても、次々と撃ち込まれる石の槍を避ける為に激しい機動を行わなければならない。視線の基点が揺れ動いている状態では千里眼も正しく使える可能性は低いだろう。
舞を背負えば慣性制御フィールドにより空中で停止出来るが、舞とアーシャの二人を背負える程俺の背中は広くない。
あちらを立てればこちらが立たず。こちらを立てればあちらが立たず。時間がかかるが舞を背負って自力で渦を探すしかないかもしれない。
「玉藻ちゃん、アーシャちゃんを抱っこして舞ちゃんをおんぶしたら?」
「その手が・・・じゃが、アーシャを抱っこすれば両手が塞がってしまう。舞が不安定になってしまうのじゃ」
母さんが提案してくれたが、俺の手は二本しかない。アーシャを両手で抱っこしたら背中の舞を固定出来なくなってしまう。阿修羅様に頼んで一時的に腕を増やしてもらう、なんて出来れば解決するのだが、流石に頼むのは無理だろう。
「尻尾で固定出来ないかしら?」
「それは盲点じゃったな・・・」
言われてみれば、玉藻になった俺には四本の尻尾があるのだ。意識すれば舞を固定する位出来るかもしれない。
「玉藻お姉ちゃん、試してみよう!」
「そうじゃな。舞、後ろからしがみついて・・・少しムズムズするのぅ」
力を入れて舞を支える事は可能だが、妙な感触がして気になってしまう。狐の尻尾は敏感なので、体重がかかって変な感触になっているのだろう。
「これでアーシャを抱っこすれば・・・うむ、いけそうじゃ」
アーシャを抱っこしても大丈夫そうなので、この作戦を採用する事にした。これで三十七階層も突破出来そうだ。
空中に居ればモグラに捕捉されない可能性もあるが、撃たれないと高を括っていて不意に撃たれたらたまらない。ならば撃たれる物として対応した方が良い。
「では行くぞえ、準備は良いな?」
「大丈夫、近寄る物は全部止めちゃうよ!」
迷い家から出る出口の前で空歩を使い浮いておく。外に出たら空中なので、空歩を使っていないと出た瞬間に落下してしまうからね。
「諦めたのか、撃ってくる気配はないようじゃ。一度三十六階層に繋がる渦に戻る故、そこから探知を頼むぞえ」
モグラからの射撃を避ける為に三十六階層に繋がる渦から離れてしまっていた。アーシャの探知は三十六階層からの渦の場所でやってもらう。そうしないと、次に来た時に三十八階層への渦がどの方向にあるのか分からなくなるからだ。
「あそこが三十六階層に戻る渦・・・空中でも探知されるようじゃ。楽はさせてもらえんようじゃな」
三十六階層への渦が見えてきたと思ったら、地上から石の槍が三方向から飛んできた。どうやら空中でもエンカウント判定されてしまうようだ。
しかし次々と向かってくる石の槍は一定の距離まで来ると速度が落ちて停止、そのまま落下していく。どんなに撃ち込まれても、舞の慣性制御を抜ける事は出来ないのであった。




