第七十五話
医院から自宅に戻りリビングに入る。食材などの買い物をする時用のカードを棚の引き出しから出して財布に差した。
「お兄ちゃん、出かけるの?」
「ああ、連絡なしで帰ってきたから、俺の分の刺し身が無いんだ」
「私も一緒に行く!ちょっと待ってて」
部屋着から外出着に着替える為に部屋へと駆け出す舞。返事を聞かずに行ってしまったが、断わるなんて選択は無いので何も問題ない。
「お待たせ、行くのはいつものスーパーね」
「それが無難だな。ついでにお菓子も見てくるか」
お菓子と聞いてはしゃぐ舞。上機嫌で俺の右腕に抱きついてくる。
「お兄ちゃん、上野のダンジョンに潜ってきたのよね?」
「ああ、上野には甲羅を加工出来るスキルを持った人が居たからね。無事手に入れて加工を頼んできたよ」
「じゃあ、狐さんに会ったの?今、凄い話題になってるあの子!」
期待に目を輝かせて俺を見る舞。しかし、俺はその期待を裏切る返答をしなければならない。
「残念だけど会わなかったよ。俺はずっと九階層で亀を狩っていたからな」
「そっかぁ、でも凄いよね。ゴーレムを素手で倒したって言われてるよ」
「普通は武器を持ったパーティーで倒すモンスターだからな。獣人の力は強いというしね」
テンションが高い舞に今回のダンジョンでの様子を聞かせながら歩く。と言っても、ずっと亀狩りをしていた事になっているのであまり面白い話ではない。
「着いたぁ。カートは私が押していくね」
「頼んだぞ。まずはお菓子売り場に行こうか」
要冷蔵の刺し身を先に買わずに、お菓子を先に買っておく。大した違いはないだろうが、癖のようになっていた。
「むむっ、白にするか黒にするか、それが問題ね・・・」
お菓子売り場で腕を組み、真剣に悩む舞。彼女は難しい二択を迫られている。
「白と黒、両方買っていって半分こすれば両方食べられるぞ」
「それよ!お兄ちゃん天才!」
舞は喜々として白かりんとうと黒糖かりんとうの袋をカゴに入れる。どちらも違った美味しさなので、悩む気持ちはよくわかる。
「次はお刺身だね。こっちから行くと早いよ!」
カートを押す舞について行って鮮魚コーナーに移動する。多種多様なお魚が売り場に並んでいる。アジやサバ、ホタテやママカリなどメジャーな魚は判別出来るが、時折聞いたことのない名前の魚もあった。
「ハマチは・・・あったよ!」
「ありがとう。では美味しそうなハマチを選んでくれ」
美味しそうなハマチを舞に選んでもらい、カートに入れた。買うものはカートに入れたのでレジに行こうとしたが、舞は見事なヒラメの刺し身を見つめている。
「一品増えても支障はないよな」
「お兄ちゃん、良いの?」
こうして夕食の刺し身が一品増える事となった。これは非常に高度な現場の判断によるものである。
舞が選んだヒラメの刺し身もカートに入れ、お会計の為にレジに並ぶ。幸い混んではおらず、前には二人が待っているだけですぐに順番が来た。
「すいません、これだけ別でお願いします」
「はい、かしこまりました。お会計はこちらでお願いします」
ハマチの刺し身だけ別会計にしてもらい、舞に家から持ってきたカードを渡して会計してもらう。このスーパーではレジを通した後、会計の機械で現金かカードで支払いを行う。
残りの商品もレジに通してもらい、こちらは俺のカードで会計を済ませる。お菓子とヒラメは俺の独断で買ったので、俺の稼ぎから出すのが妥当だからだ。
家に帰りお菓子とヒラメを別会計で買った事を母さんに報告すると、一緒で構わなかったのにと言われた。うちの家族は全員舞に甘いからなぁ。




