第七百二十六話
陸軍兵はまともに捜索する事が出来ず、任務を埼玉県警に引き継ぐ事となった。カリオ上尾に設営された指揮本部をこの研究所の敷地に移設する作業が行われた。
鈴代は陸軍のトラックで待機、周囲の封鎖は解かれ手の空いた警官により研究所の捜索が行われていく。しかし、本部長の報告は芳しい物ではなかった。
「神使様、やはり生存者は無し。監視カメラの類も全て破壊されているそうです」
「映像データがどこかに残っていませんかね?」
「サーバーやパソコンは、全て物理的に破壊されているようです。恐らくハードディスクの復元は難しいでしょう」
ソフト的にデータを消去した場合、そのデータへの入り口を見えなくして出せなくするだけなので復元する事が可能だ。しかし、ハードディスクを物理的に壊されてはそれも出来ない。
「ネット上のクラウドに保存していた痕跡は?」
「どうも外部のネットに接続していなかったようです。研究所内でのネットワークは構築されていたようですが、外部とへ物理的に繋がっていて形跡がありません」
多分ハッキングによりデータを抜かれる事を恐れての処置だったのだろう。ネットに繋がっていないならば外部からハッキングしようがない。完璧な対策だ。
「紙媒体で残されたデータも重要とは思えません。拾えたのは研究員個人が残したと思われる金平牛蒡のレシピですとか、ゲームのパスワード等です」
「ゲームのパスワード?よくそれがゲームの物だと分かりましたね?」
「テレビにゲーム機が繋がれていて、それが打ち込まれている途中だったそうです」
パスワードを間違えないよう慎重に打ち込んでる最中に攻撃されたのか。それは襲撃に気付かなくても仕方ないな。
「因みに、捜査員が最後まで打ち込んだ所、パスワードが違いますとのメッセージか表示されたそうです」
「結局パスワード書き間違えていたのか。その研究所、報われなかったな」
パスワードが違うという絶望を味わう事が無かったので僥倖と言うべきか。あの絶望感は筆舌にし難いものがある。
「神使様、そこで疑問が浮かぶのです。何故彼はパスワードをスマホで写さなかったのかと」
「昔は間違い防止に何度かパスワードを控えたものだけど・・・今はスマホで撮影すれば一瞬だし間違える事も無いから便利だよなぁ」
裏が白いチラシに鉛筆で書いたパスワード。間違えて親が捨ててしまい最初から、なんてアクシデントも当時のあるあるだった。
「多分、研究員はスマホ持ち込み禁止だったのだろう。だから撮影する事が出来ず、紙に書き写したのだと思う」
仕事中にゲームするなよとか、バッテリーバックアップも付いてない古いゲームやってたのかよとか突っ込みたいが相手は黄泉平坂を下っている。
「捜査はこちらで行いますが、判明した事は陸軍さんにも正式なルートでお伝えします」
「想定外の事態となってしまいましたが、よろしくお願いします」
舞とアーシャを連れて買い物するたけの筈だったのに、どうしてこうなったのか。全部鈴木が悪いという事にしておこう!




