第七百二十四話
「神使様、それって神の御業によるもので・・・」
「違いますからね?大宮基地所属の兵士達と鈴代君の友情パワーが成した業ですからね」
報告を受けた軍曹がやって来て、現状を確認して頭を抱えた。その気持ちはよく分かるが、残念ながら真実はいつも一つなのだ。
制圧対象が理性を取り戻し、抵抗を止め進んで陸軍の管理下に入る。これは喜ばしい事だ。しかし、軍人なのでその過程を報告書に纏めて上に上げる義務がある。
問題は鈴代君が理性を取り戻した理由だ。神使様による神の力の行使により正気に戻ったというなら良かった。陸軍の上層部も「そんな事もあるだろう」と無条件に納得し、神の使いに問い合わせる事もしないだろう。
しかし、理由が「リア充憎しで制圧対象と陸軍部隊が意気投合し、神使様に共同戦線を張ったから」と書いたらどうなるだろうか。
陸軍の将官達がそんな理由で納得する可能性は低いだろうし、制圧対象と共同で神使様を攻撃しようとしたなんて部隊が丸ごと反乱を起こしたと判断されても否定出来ないだろう。
見方によっては部隊が鈴代君に与して俺に敵対、鈴代君の下で神使様討伐を企んだのだろうと言われてもそれを否定する証拠が無いのだから。
「かと言って、戦闘を止めて軍の指揮下に収まる意思を見せているのも事実。どの程度の処罰になりますかね?」
「そうだな・・・個人的には俺に釣書き送ってきた男とお見合いさせるというのが落とし所だと思うのだが。大宮の基地司令に丸投げで良いのでは?」
彼らは大宮基地の人間で、俺は情報部の人間だ。階級が上ではあるが、指揮系統が別なので彼らに対する指揮権も無いし処罰を決める権限も無い。
「中尉殿の釣書きはどちらに保管されているのですか?」
「陸軍と宮内省に送られてきているらしい。全て断るよう頼んでいるから、破棄されている可能性がある」
兵士達は男色の趣味がある男性とのお見合いをセッティングされると顔色を青くしているが、本当に実行はしないだろう。と言うか、相手が同意しないだろう。
「お見合いの手配は後でするとして、現在周辺封鎖は解除しておりません。事情聴取と現場確認に滝本中尉殿にも立ち会って頂きたいとの事です」
「その内容を俺から関情報部部長に報告する事となるが、それに同意されるなら立ち会いましょう」
本来別任務だったとはいえ公務中の出来事なので、上司への報告は必須となる。となると、大宮基地から上層部へ上がりそこから各部署に共有される情報が情報部のみ独自に得られる事になってしまう。
「元は中尉殿が行っていた護衛任務中に起きた事件です。そこは気になさる必要は無いかと」
とは思うけど、戦力を出して対応してくれた大宮基地に対する配慮というのも大切なのだ。これぞ組織の中で上手く立ち回る為の処世術。
一先ず小休止する事となり、現場は負傷者の搬送や装備の確認で騒がしくなった。俺は舞のスマホに事件は解決したが迎えに行くのは少し遅くなる事をメールした。
早く迎えに行きたい所だけど、ここで迷い家を出す訳にはいかないし迷い家を隠せてもセーフティーハウスに逃がした舞とアーシャがここに来たら辻褄合わないからね。




