第七百二十三話
「ちょっと待て、一先ず落ち着こうか?」
「大丈夫です、中尉殿。我らは十分に落ち着いています」
「階級が上の者に刃を向けてて、それのどこが落ち着いてると言うのか」
逃げ道を塞ぐように包囲し、徐々に囲みを狭くしていく兵士達。鈴代もその輪に加わってるけど、何でさっきまでの制圧対象がすんなりと連携取ってるんだよ!
「お前ら初対面だろうが。何で当たり前のように連携してるの?」
「戦いの中で相手を理解する。武人とはそんなものです!」
「リア充への憎しみは、全てを凌駕する。滝本、貴様にはもてない男の苦しみはわかるまい!」
モテるモテないは置いておいて、鈴代の思考は完全に人間のそれに戻ったようだ。それは朗報なのだが、この場を収めないとね。
「恋愛談義は後でするとして、鈴代は思考がまともに戻ったな?大宮の兵達は基地司令にでも婚活相談しときなさい」
「中尉殿、独身彼女無しの基地司令に相談しても効果が望めるとは思いません!」
モテないから大宮基地に所属となるのか、大宮基地に所属したらモテなくなるのか。これは情報部で調べるべき謎なのかもしれない。
「・・・言われてみれば、普通に話せるな。憑き物が落ちたような気がする」
「身体の方はどうだ?痛みとか違和感とか感じていないか?」
「ああ、特に痛みはない。おかしな所も無さそうだ」
武器にしていた木を置いて身体の調子を確かめる鈴代。崩壊する様子も無さそうだし、完全にその姿で定着しているようだ。
「鈴代が理性を取り戻してくれたのは嬉しい誤算だな。戦闘の終結を本部に報告、指示を仰いでくれ」
伝令を出してこの後の指示を待つ。研究所の調査も必要だろうし、鈴代の処遇も考えなくてはいけない。
「滝本、無理を承知で頼みがある」
「頼み?彼女を紹介しろと言われても無理だぞ?」
リア充扱いされたが、異性の知り合いなんて殆ど居ない。黒田侯爵令嬢は挨拶した程度だし、親しいのなんてアーシャくらいなものだ。
「それはそれで頼みたいが違う。俺を保護して欲しい。俺は俺を鈴木に売った親の元にも使い捨てにした鈴木にも戻りたくないんだよ」
「鈴代・・・分かった。確約は出来ないが、軍で預かれるように動いてみよう」
彼も訳アリのようだ。その辺りの事とか研究所の事とか、彼に聞かなければならない事は沢山ある。どの道暫くは陸軍で身柄を預かる事になるだろう。
「行く先が無いなら大宮に来て欲しいな」
「リア充を制裁する同志はいつでも大歓迎だ!」
それ、末端の兵士が勝手に決めて良い事じゃないからね?勝手に決めても基地司令がNOと言ったら御破算になるからね?
「安心しろ、何せうちの基地司令もリア充撲滅委員会のメンバーだ。同志(非リア充)を拒む事は無い」
「そう言えば、基地司令も独身彼女無しって言ってたなぁ・・・」
それで良いのか大宮基地。そして、その現状を放置して良いのか帝国陸軍。陸軍に対して不安を覚える事となったが、事件自体は何とか穏便に終息しそうだな。




