第七百二十二話
「鈴木緑・・・ああ、ベルウッド学園で時折絡んできた鈴木の令嬢か。と言う事は、君は鈴木の関係者か?」
「どぼけるなぁ!なんどもあっでいるだろうがぁ」
横薙ぎを跳んで躱し、立ち木に当たって止まった木の上に立つ。すぐに振り上げられたので、その勢いを利用して後方に跳んだ。
「いやいや、会ってると言われても容貌変わってるでしょう。それで判かれと言われても」
「おれをわずれたというがぁ!ふざけるなぁ!」
激昂して攻撃が激しくなってしまった。しかし、その分理性が飛んだのか単調になったので躱す事は簡単になってしまっている。
「自己顕示欲が激しそうだな。プライドも高かったりしたか?」
相手は自分を覚えているのが当然なんて言い草からの推測だが、多分当たっているだろう。あのお嬢様の側近、そんな感じがしてた・・・あっ!
「そう言えば、何時からか見なくなった護衛が居たな。あれか!」
「やっどわがったかぁ!おでは、スキルがぜんどうようじゃなかっだせいでおじょうざまのごえいをはずされたんだぁ!」
こいつもスキルの犠牲者か。戦闘用スキル持ちが強い事は否定しないが、それだけで長年の修練を否定されたら怒るのも無理はない。
「それは気の毒だったな。どんなスキルなのかは知らないが、その憤りは間違えていないと思う」
「ぎざまのようなめぐまれだやつになにがわがる!」
思いの丈をぶつけるように、彼は手にした木を地面に叩きつけた。衝撃で飛び散った土が囲んでいる兵達にもかかる。
「そう言うけどな、『着せ替え人形』と『女性体』だぞ?スキル名聞いた人の反応は想像つくよな?」
実験体改め鈴代の動きが止まる。俺は言葉の弾丸を続けて放っていく。
「女になるスキルに洋服着替えるスキルだ。聞いた人が『凄いですね』なんてならないと誰でもわかるよな。加えて女顔で男のままでも女と間違えられるんだぞ?」
「あっ、そう言えば練馬の奴が中尉のダンジョン研修で性癖歪んだって話してたな」
「あっ、その話俺も聞いたわ。そこらのアイドルより可愛かったって」
兵士の一人が練馬基地の同期から聞いたという話をすると、次々と練馬から漏れ聞いた話を披露する。
「この歳で中尉だから勝ち組とか思ってるかもしれんが、そのせいで見合いが殺到してるからな。言っておくが、男からも釣書き来てるんだぞ。女性体スキルのせいで」
「お、おどごからきゅうごんされでるのか・・」
「男が好きな男が居るのは知ってる。そんな人達を否定するつもりはない。だがな、俺はノーマルなんだよ。恋愛対象は女性だから、男から言い寄られても嬉しくないんだよ!」
男にモーションかけられる様子を想像したのか、鈴代と兵士達の視線が同情的な物に変わっていた。しかし、場の雰囲気は突然変わってしまう。
「釣書きと言えば、黒田家が華族を牽制してたな」
「ああ、あの噂って本当だったのか。中尉殿、黒田家令嬢と婚約してるって噂もあったよな?」
あれ?兵士達の話の方向が変な方に向かっている気がするのだけど?
「今日の中尉殿、アナスタシア皇女殿下の護衛だって聞いてるけど皇女殿下とも親密らしいし・・・中尉って、実はリア充じゃね?」
「「リア充爆発しろっ!」」
ちょっ、そんな事で意見一致させるな!鈴代も何でそこだけ流暢に叫ぶんだよ!




