第七百二十話
さて、どうしたものかと悩んでいると頼もしい援軍が駆けつけて来てくれた。
「滝本中尉、二週連続でこんなトラブルに見舞われるとは災難だな」
「神社でお祓いしてもらうべきですかね、先輩」
情報部の先輩に率いられた陸軍大宮基地の実戦部隊である。万が一に備えて先輩一名が大宮基地にて待機していたのだ。
「本部長、怪物の牽制は我々に任せて周辺住民の避難を。皇女殿下と妹御はセーフティーハウスにお連れ致します」
「う、うむ。おい、現場の者達に対象と距離をとるよう通達。陸軍と交代する故無理をするなと伝えろ!」
本部長は到着した陸軍部隊との入れ替えを部下に指示した。その間に俺達は陸軍の車両に乗り込む。
「中尉、俺が二人をセーフティーハウスに連れて行くふりをするから迷い家に!」
「成る程、助かります。舞、アーシャ、一先ず迷い家に入るのじゃ」
ただ二人を迷い家に入れると警察から「皇女殿下は何処に行ったのだ?」と問い詰められるが、先輩のカモフラージュにより警察に迷い家を明かさずに済む。
「玉藻お姉ちゃん、舞も一緒に・・・」
「舞のスキルを衆目の下で使わせる訳にはいかぬ。聞き分けるのじゃ」
舞の慣性制御は正に切り札。そう簡単に露見させて良い物ではない。また、機動力に劣る舞を戦闘中迷い家に避難させる事態になれば迷い家も世間にバレる事となる。
「玉藻お姉ちゃん、絶対に負けないでね?」
「なに、空歩で上空に逃れればまず負けぬ。安心せい」
舞を宥めて迷い家に避難させ、一旦優に戻る。先輩はこの車両でセーフティーハウスに行くふりをするので車両から降りた。
「滝本中尉、いえ、神使様。お久しぶりです」
「貴方は・・・その節はお世話にになりました」
陸軍大宮基地の部隊責任者として着任したのは、正月の騒動で対処してくれた人だった。
「まさかあの時の少年が神使様だとは・・・もっと熱心に勧誘しておけば良かったと後悔しましたよ」
「もし大宮基地に配属となっていたら、鬼のような量のストレスもセットで付いてきましたよ」
挨拶代わりの雑談をしながら戦闘指揮車両を中心に設営された本部に入る。スタッフが緊張した面持ちで敬礼し出迎えてくれた。
「状況は?」
「警官隊と交代し、怪物への牽制と攻撃を行なっております。しかし、防御が固く中々有効打を与えられない上自己治癒により傷が再生しているそうです」
陸軍部隊は対モンスター用装備を着けているので怪物に対処出来ているようだ。奴が前の怪物同様自壊するなら、その時まで任せておけば良いのだが。
「奴は生えている木を抜き、それで巧みに攻撃を防いでいるようです。これは少々厄介ですね」
「警官が奴を発見してから結構な時間が経っています。板橋の前例では自壊が始まっていた筈なのですが・・・」
陸軍の実戦部隊は怪物を足止め出来ているが倒すには至らない。そして、前回のように自壊する気配が見られない。やはり玉藻を出すしかないのだろうか。




