第七十二話
ソファーから腰を上げ、応接セットの脇に立つ。宮野さんと白鳥さんの視線を浴びながら心の中で着せ替え人形のスキルを発動させると、ジャージを着た人形が両手に片手半剣を持って現れた。
「これが俺のスキル、着せ替え人形です。人形に装備させた衣服や武具は、自由に換装する事が出来ます」
理解しやすいように着せ替え人形を出したままで換装を行う。人形の服はシャツにジーパン、両腕に籠手という今まで俺が着ていた装備に変化する。
「入れ替わった・・・その人形に盾を持たせれば道中の持ち運びに労力は要らないということか」
「その通りです。今はわかり易く人形を出したままで換装しましたが、消した状態でもこの通り行えます」
白鳥さんの呟きに答え、人形を消した状態で再び換装する。両手に持った双剣は籠手へと変わり、着ていたジャージはシャツとジーパンに戻った。
「え、ちょっと、ちょっと待った!それって戦闘中でも換装出来ると?まさか、まさかそんな芸当が・・・」
「勿論出来ますよ。剣で戦い、敵の攻撃は大盾に換装して防御する。すぐに剣に換装して斬り付けるという戦い方になりますね」
前代未聞の戦闘スタイルに、宮野さんも白鳥さんも言葉を発せず呆然としている。疑似アイテムボックスといえるこのスキルは刺激が強すぎたようだ。
「失礼します、お茶をお持ちしました。・・・宮野さんもギルド長も、何バカ面晒してるんですか?」
「あはは、ちょっと驚かせてしまったようで。悪い事をした訳ではありませんから、その点はご心配なく」
三人分のお茶を持って入ってきた佐倉さんは、二人に容赦のない言葉を投げる。一応立場ある人なのだから、少しはオブラートに包んであげてもと思ってしまう。
「ギルド長、大口開けてバカ面してるとお茶を流し込みますよ?返事がないって事はオッケーなんですね?」
「佐倉さん、流石に熱いお茶流すのは止めてあげて!せめてもう少し冷めてからで!」
初対面の白鳥さんを庇う義理も義務も無いのだが、一応ここの責任者なので庇っておくことにした。
「はっ、あれ、佐倉君いつの間に?」
「お茶を持ってきたら、二人がバカ面晒してたんですよ。お客様にお茶も手配しないなんて、だから年齢と彼女居ない歴が完全一致するんですよ」
「ぐはっ!さ、佐倉君・・・言ってはならない事を!」
復帰したと思ったら、今度は佐倉さんにトドメを刺された白鳥さん。このままでは話が進まない。
「ギルド長がもてない理由はこの際置いといて、まだ話があるからギルド長のHP減らすの止めような」
「・・・宮野さん、たった今御自分でトドメを刺しませんでした?」
佐倉さんを止めるふりをして白鳥さんにトドメを刺した宮野さんに現状を告げる。白鳥さんは応接セットのローテーブルに突っ伏し「ブルータス、お前もか」と繰り返し呟いている。
「宮野さん、見事なトドメでしたわ。面白い物も見れましたし、失礼いたします」
白鳥さんを言葉の刃でぶった切った佐倉さんは、上機嫌で退室していった。取り敢えず宮野さんと依頼について詰めておこう。
「という訳で落とし亀の甲羅の加工と鞘二本の作成をお願いします」
「勿論引き受けるよ。こんな面白い依頼、断る理由は無いからね。それで、大盾の持ち手で希望する素材はあるかな?」
心に大きな傷を負った白鳥さんを放置し、俺は宮野さんと依頼についての詳細を決めていった。白鳥さんは好奇心で来たみたいな事を言っていたし、問題無いよね。




