第七百十二話
関中佐の説得は無事終わり、記者会見も恙無く行われた。恙無くと言ったがトラブルにならなかったという意味であり、質問の内容は酷いものだった。
まず初めにされた質問が質問ではなかった。先の取材陣大量逮捕に対する謝罪と賠償を求めると宣告されたのだ。
彼らは不法に道路を占拠し通行を阻害したから取り締まられた。そして、取り締まりに従わなかった為に公務執行妨害で逮捕されたのだ。
俺がマスコミを呼んでおいて放置したならまだしも、勝手に押しかけてきて勝手に取り締まられて勝手に逮捕されたのだ。何故に俺が謝罪しなければならないのか。
逮捕された面々はキッチリと前科を付けられたようで、その取り消しもしろと迫られた。しかし、俺は警察の人間ではない。陸軍になら話を通す事も出来るが、警視庁に指図する権限は持ち合わせていない。
それを懇切丁寧に説明したのだが、聞く耳持たず騒ぐため控えていた広報課の職員が警告した。それでも収まらなかった為、警告を無視した者達は応援として配置されていた攻略部隊前衛担当の方々に排除されていった。
言い忘れていたが、この記者会見は陸軍主催な為市ヶ谷本営にて広報課の仕切りで行われた。仕事を投げられた広報の皆さんも嬉しそうだったので何よりである。
三割の記者が居なくなった後、漸くまともな質問をされるようになった。本当に玉藻なのかと問われ玉藻になってみせたり、なぜ隠していたのかと問われてマスコミによる取材攻勢を防ぐためだと答えておいた。
実際、俺が玉藻だとバレた翌日には迎賓館への出入りを不可能にする状態にされたのだ。その判断が正しかった事を他でもないマスコミが証明している。
次いで質問が事件に関する内容に変わっていた。しかし下手な事を公表する訳にはいかない。殆どの答えが調査中になってしまったのは仕方ないだろう。
「お兄ちゃん、まだ会見の疲れが残ってるの?」
「ああ。でも、今日の買い物で発散すれば大丈夫だよ」
埼玉に向かう車の中。俺は高級車のフカフカなシートに座り左右を二人の美少女に挟まれている。言うまでもなく舞とアーシャだ。
「私達は先輩がガードしてくれたので助かりました」
「黒田先輩には感謝しないとね」
俺が玉藻と判明した以上、その妹である舞が注目されない筈がない。学校でクラスメートに囲まれ、昼休みには上級生までやって来たそうだ。
それを上手く捌いてくれたのが黒田侯爵令嬢だった。彼女は侯爵令嬢という身分を最大限に活用し、舞に接触する華族を牽制してくれたそうだ。
「それにしても、ただお買い物したかっただけなのに大ごとになったわね」
舞がため息交じりで愚痴を溢す。現在、車は帝都と新都心を結ぶ高速道路を走っているのだが、他に走っている車は見当たらない。
「まさかマスコミ対策に高速道路を通行止めにするとは思わなかったわ」
「マスコミも対抗してヘリで追ってますし・・・」
上空には数機のヘリが車の上を飛んで追尾している。そんなに手間暇とお金をかけてまで取材しても、赤字になるだけだと思うけどなぁ・・・




