第七十一話
「まずは以前の放送のお礼を言わせて下さい。あのTHKの放送でダンジョン内犯罪への世間の関心が広まりました」
「あっ、ああっ!どこかで見覚えがあると思ったらあの放送の!」
白鳥さんが頭を下げ、宮野さんが俺を指差し立ち上がる。二人ともあの放送を見ていたようだ。白鳥さんが宮野が伸ばした腕を叩く。
「こら、失礼だろうが。言葉や再現ドラマだけではなく実際の動画であった事が説得力を増した。しかも脅しているのが厳つい男二人で、被害者が華奢な君だったから尚更だ」
「俺はただギルド員の方に助けられただけですから。それにダンジョン内犯罪は他人事ではありませんし」
この問題は探索者が全員カメラを装着する事を義務化して、その映像をリアルタイムでネットに流せば大きな抑止力となるだろう。
しかし、そのために必要な素材が希少な事がそれを不可能にしている。そうなると玉藻になる時困るので、まだ普及されては困るのだが。
「前置きはこの辺にしておいて、本題に入ろう。その落とし亀の甲羅を加工したいのだったな」
「はっ、そうだった。加工するのは構わないが、出来れば使う探索者を連れてきて欲しい。持ち手の位置や大きさを使い手に合わせたいからな。次があるかどうかの珍しい仕事だ、万全を期したい」
宮野さんはこの依頼にかなり入れ込んでいるようだ。俺としても良い物を作ってくれるなら大歓迎だ。
「これを使うのは俺です。なので俺の体格に合わせて・・・いや、まだ成長するでしょうから少し大き目に作って欲しいですね」
二人は俺が落とし亀の大盾を使うと言うとかなり驚いた。線が細い俺が使うとは思っていなかったのだろう。
「てっきりパーティーメンバーの誰かに渡すのかと思っていたよ。運用はかなり難しいと思うが大丈夫かね?」
「俺はソロなので渡す相手なんて居ませんよ。それと、ヘラクレス症候群という筋肉密度が高くなる病気なので見た目より力が強くなっています。運用に問題はありません」
俺は秘密が多いのでパーティーを組んでいない。友達が居ないからソロをやっているのではない。理由あってのソロなので、ボッチではないのでお間違えのないようにお願いします。
「ソロで大盾を使うだって?攻撃はどうするんだ!魔法スキルでも持っているのか?」
「いいえ、俺は戦闘スキルを持っていません。しかし下手な戦闘スキルよりも有効なスキルなので問題は無いのですよ」
宮野さんは訳が分からないと顔に書いたような分かりやすい混乱状態に陥っている。白鳥さんも頭上に幾つものクエスチョンマークを浮かべているが、スキルの詮索はマナー違反だと思い出したようだ。
「すまんすまん、探索者に手の内の詮索はご法度だったな。宮野君は滝本君に合わせて加工すればいい」
「いえいえ、疑問に思う気持ちはわかりますから。それと、剣の鞘を作る依頼もお願いしたいのですが」
頭を下げる白鳥さんに気にしないよう告げて頭を上げてもらう。ついでに剣の鞘を作る依頼も話してみた。
「鞘の素材に拘らないならそう難しい話じゃないから受けるけど、その剣を持ってきてもらわないと作れないぞ」
「剣ならあるので大丈夫です。甲羅と一緒に預けますのでお願いします。ちょっとスキルを使いますがよろしいですか?非戦闘系スキルなので害はありませんから」
「ああ、構わないが一体何を・・・」
白鳥さんの許可を得たが、またもや白鳥さんの頭上にクエスチョンマークが乱れ飛ぶ。収納系スキルが存在しないこの世界だ。まさかスキルで物を出すとは夢にも思わないだろうな。




