第七百三話
「今回の事件、前の事件と同一犯でしょうかね?」
「恐らくそうだろう。緒方の事情聴取が始まれば確定するが、まだ話を聞ける状態ではないから数日後になると医師は言っている」
緒方元少将、かなりの血を流していたからな。回復が遅くなっても仕方ないだろう。林原さんも昏睡状態だし、当事者からの事情聴取は先の話になりそうだ。
「では事件に関しては進展が無さそうですね。中佐、しつこいマスコミをどうにか出来ませんか?」
「この事件は世間からの注目が高い。だが犯人達からの事情聴取が出来ない為、事件の詳細に関して何も発表出来ない状態だ」
「となると、もう一つの注目事項・・・玉藻に対して取材が殺到すると」
人が多い新宿駅のすぐ近くであれだけの騒ぎが起きたのだ。関心が集まらない訳が無い。そんな数字が取れそうなネタをマスコミが放っておく筈はない。
しかし、犯人と幇助した者から情報が取れない。現在情報を取れる事件の関係者は、それを解決した玉藻のみ。そりゃ取材陣も集まるわ。
「事件に関してもだが、中尉が玉藻様だったという事実も耳目を集めている。広報部が煩くてかなわない」
「マスコミの対応、あの部署でしたね。だけど玉藻に関しては中佐が専任。ご迷惑をおかけします」
かなり疲れた様子の関中佐。これは広報部からかなり突き上げを食らっていると予測。今度迷い家産干果の詰め合わせセットでも贈ろうか。
「一度正式に記者会見でもやればマスコミの追及も減りますかね?」
「あまり減るとは思えんが、一度はやる必要かあるだろうな。中尉、頼めるか?」
「気は進みませんがやりましょう。今のままでは両親や舞、ニックやアーシャにまで迷惑がかかりますから」
俺が所在不明か迎賓館に居る時は迎賓館への出入りがほぼ不可能になってしまうこんな状態を続ける訳にはいかない。
「それと、士官学校はどうします?俺は構わないのですが、教師達が授業を凄くやりにくそうでしたよ」
「そちらは特例で卒業になるだろう。元々中尉を尉官にする方便だったからな。今では神使様を尉官とはけしからん、もっと階級を上げるべきだと多方面から責められているそうだ」
階級は低いより高い方が何かと便利かもしれないが、管理職に回されてダンジョンに潜れなくなるのだけは避けなくてはならない。
「左官や将官にされて司令部付き・・・なんて辞令が出たりしませんよね?」
「上では各所で玉藻様の取り合いが起きてるよ。神使様を取り込めば発言権は間違いなく増大するからな」
「俺は情報部から動く意思はないと伝えておいて下さい。何なら一筆書きますが、あまり意味ないですかね」
どうせ情報部が手放したくないから嘘をついている、玉藻様を言い包めて書かせたと難癖付けて来るだろう。
「取り敢えず、中尉は俺から連絡するまで自由とする。士官学校も行く必要はない。軍や政府から何かしらの支援が必要となったらすぐに連絡をしてほしい」
「分かりました。お忙しい中、時間をいただきありがとうございました」
現在情報部は、あの事件の後始末や調査に加え玉藻の件でキツネの手も借りたい程に忙しいのだ。俺は礼をして部屋から退出しようとした。
「・・・聞かないでくれるのですか」
「情報部が全てを知っていて黙っていたなんて、俺は知りませんからね」
言わなくても良いのに言ってしまう。だから俺は関中佐が好きなんだ。




