第七百一話
「あら、玉藻ちゃんおはよう。昨夜はその姿でいたのかしら?」
「うむ、眠気に負けてしもうてのぅ」
翌朝、少々夜更かしした俺は眠い目を擦りながら寝室を出た。それを母さんに目撃され、隣に座らされる。
「玉藻ちゃんが神の使徒であっても、私の子供な事は変わらないわ。何でも相談するのよ」
頭を抱き寄せられ、優しく撫でられる。そのまま眠ってしまいたくなる衝動に駆られるが、今日は月曜日。士官学校に登校しなければならない。
「あっ、お姉ちゃんが玉藻お姉ちゃんのままだ!」
「玉藻お姉さん、私もモフらせてください」
半分寝ていた俺が頷くと、二人に尻尾をモフられる。絶妙なモフり具合にまた眠気が増してきたが、父さんに起こされた。
「こらこら、三人とも学校があるだろう。早く支度しないと遅刻するぞ」
アーシャと舞は渋々俺の尻尾を放し、俺も妖狐化と女性体を解く。着替えて朝食をとり終えたタイミングで迎賓館の執事さんがやってきた。
「申し訳ありません、皆様を送迎する車両が遅れるとの事です。暫しお待ち下さい」
「それは構いませんが・・・ああ、アレが原因ですか」
父さんが指さしたのは、つけたままになっているテレビの画面。そこには迎賓館に入ろうとする車が取材陣や野次馬に阻まれて立ち往生し、排除しようとする警備と揉めている風景が映っていた。
「あれでは入ってこれないな。宮内省から文句を言ってもすぐにはどかないだろうし、誘導するよ」
「誘導?優、何をする気だ?」
「あいつらの目的は玉藻だからね。玉藻がここから移動すればそっちに移ると思う」
玉藻になった俺は正面玄関から出て堂々と姿を現す。それに気付いたマスコミと野次馬が一斉にカメラやスマホを向けてきた。
「玉藻様、玉藻様の正体が滝本中尉だと報じられていますが間違いありませんか?」
「一言、何か一言お願いします!」
俺はマスコミの質問に答える事をせず、空歩で空に舞い上がる。そしてマスコミ連中が追ってこれる速度で本営を目指した。
「くっ、追え、追うんだ!」
「臣民は事実を知りたがっています!玉藻様、お答え下さい!」
マスコミは喚きながら追ってくるが、全て無視する。知りたいなんて理由で他人のプライベートまで知れると本気で思っているのだからたちが悪い。
振り返り迎賓館を見ると、マスコミと野次馬が俺を追ってきたので入れなかった車両は無事に迎賓館に入ったようだ。少し速度を上げてマスコミとの距離を離す。
「うわっ!た、玉藻様!失礼しました!」
「驚かせてすまぬ。じきにマスコミ連中が押し寄せて来る故、対処を頼むのじゃ」
「はっ!命に代えてもこの場を通しません!」
本営の門前に降りてすぐにやって来るであろうマスコミへの対処を門衛の兵に頼む。増援を頼む時間は無いだろうが、いきなりマスコミが押し寄せるよりは心構えが出来ている方がマシだろう。
さて、このままの格好で登校する訳にはいかない。何処かで優に戻りたいが、情報部に寄ってたら遅刻しそうだしどうしよう。




