第七百話 とある地下水路にて
話は一日前、優ちゃんが暴走した林原さんと対峙していた時まで遡る。ビルとビルの狭間、狭い小道を人目を気にしながら走る人影があった。
「こっちだ、早く!」
走る人影は自身を呼ぶ声に従う。そこに居たのは関中佐と滝本中尉が乗っていた車を運転していた情報部員だった。
情報部員は逃走者を蓋を外したマンホールに押し込むと、自分も入り内側から蓋を戻す。梯子を伝い水路脇の保守用通路に降りると逃走者を先導して歩き出す。
「いきなり爆発するなんて冗談じゃない。緒方も逃げられていれば良いが・・・」
「ふっ、情が湧いたか?」
「ああ、監視対象といえど、あそこまで頼られたら悪い気はしなかった。それに、本人も根っからの悪人という訳ではなかったからな」
情報部員が導いているのは、緒方元少将を逃がし共に行動していた副官だった。彼は裏で情報部と繋がる協力者だったのだ。
「緒方元少将は重傷を負ったらしい。助かるかどうかは運次第だな」
「あんなのが暴れていては救助作業も出来まい。いくら滝本中尉でも、あんな炎の塊はどうしようもないだろう」
逃げながら自分が運んでいた少女の状態を見ていた協力者は、彼女が起こしているであろう惨状を思い緒方元少将の生存は絶望的だろうと判断した。
「中尉の大盾が溶かされたようだ。落とし亀の甲羅を溶かすとは・・・素晴らしい研究成果だな」
「それも制御が出来てこそだ。彼女が自壊するまでにどれだけの被害が出るかな」
協力者も一人目の実験体の結末は知っていた。なので二人目も自壊するまで待つしかないと思っているようだ。
「・・・被害は心配無さそうだ。中尉が全て抑えているようだ」
「そんな馬鹿な!大盾すら溶かす炎をどうやって防ぐというのだ?中尉の武器は魔鉄の双剣とダンジョン産の斧槍しかない筈だろう!」
関中佐から送られてくる情報を教えた情報部員に協力者が噛み付いた。彼の指摘は正しい。滝本中尉には炎を防ぐ手段がないというのは紛れもない事実なのだから。
「どうやら神炎で炎を燃やしているらしい。炎で炎を燃やすとか、我々には理解に苦しむ話だな」
「えっ、ちょっと待て。俺の記憶が正しければ、その神炎という能力は神使を名乗る少女の能力だった筈だが?」
滝本中尉の話をしている所に神使と言われる少女の能力が出てきた事で協力者は半ば混乱した。それを見た情報部員は笑いながら機密を打ち明ける。
「宇迦之御魂神様の使い、玉藻様は滝本中尉が変身した姿なのさ。中尉は臣民を護るため秘密をバラす選択をしたらしい」
「は?え?何だそりゃ!それ、陸軍に神使様が所属してるって事か?」
パニックに陥った協力者を見て、かつての自分もこうなったと遠い目をする情報部員。だが、今はそれを許してくれる状況ではなかった。
「ほれ、呆けてないでさっさと逃げるぞ。元少将はどれだけの情報を持っている?」
「彼の情報では研究所や本体には辿り着かんよ。末端を潰せるかどうかってレベルだな」
「そうか・・・それなら元少将は生き延びる事が出来そうだな」
その後、協力者は名と顔を変え別の任務に就く事となる。しかし、その事実を知るのはほんの一握りの人間のみであった。




