第七十話
これから更に潜るというパーティーと別れて地上を目指す。その後数組のパーティーとすれ違い、俺が持つ落とし亀の甲羅に驚かれながら地上に戻った。
「うおっ、こりゃまた珍品だなぁ」
「ああ、矢張りこれを持ち帰る探索者は珍しいですか」
「珍しいなんて物じゃない。俺は五年ここに勤めているが初めて実物を見たぞ」
ダンジョン入口の警備をしているギルド員さんにまで驚かれてしまった。知識として知ってはいたが、こうして驚かれ続けているとその希少さが実感出来る。
建物内に入っても注目され続け、話題になっているのがわかる。俺は注目を浴びながら買い取り窓口へと向かった。
「お疲れさまでした。買い取りでよろしいですね?」
「えっと、買い取りをお願いしたいのはこちらなんです。この甲羅は加工をお願いしたいのですが」
背中に背負ったリュックを下ろし、中の魔石をカウンターに盛っていく。取り出した魔石の多さと甲羅を加工するという発言に、注目して耳を傾けていた探索者達はざわめいた。
「か、加工ですね。では買い取り後にご案内致します。査定を行いますので少々お待ち下さい」
買い取り窓口のお姉さんは魔石を籠に入れると、確認の為席を外した。警備の人が甲羅を初めて見たと言っていたし、あのお姉さんも甲羅の加工を受け付けるのは初めてだろう。
「あれ、売るんじゃなく加工するのか?」
「まさか、あの娘が大盾を使うのか?」
「いや、頼まれたか何かで別の奴が使うんだろう」
ざわつく野次馬の噂話を聞きながらお姉さんの帰りを待つ。俺の性別を誤解している輩が散見されるが、説教して誤解を解く時間が無いので放置するしか無い。
「お待たせ致しました。金額はこの値段となります。詳細はこちらです。よろしいでしょうか?」
「はい、これでお願いします。決済は口座振込で。それで、加工なのですが・・・」
「すぐご案内致します。あちらのドアへどうぞ」
カウンター脇に付けられたドアを抜けて関係者以外立ち入り禁止の区域に入る。少し廊下を歩き、八畳くらいの部屋に通された。
中には応接セットが置いてあり、外部との商談などをする為の部屋らしかった。そこに二人の先客が居て、一人は作業着を着た三十代と見える男性だ。
二人の対面に座ると、二人のうちスーツを着た男性が話し始める。四十代前半くらいで、体格が良いので元探索者かもしれない。
「君が落とし亀の甲羅を加工したいという探索者か。俺はここのギルド長で白鳥という。初めての事態なので立ち合わせてほしくてな」
「加工担当の宮野です。落とし亀の加工なんて実習以来ですよ!」
二人とも興奮を抑えられないといった感じで、加工の依頼も加工賃の交渉もしていないのにもうやる事が確定しているかのようだ。
「探索者の滝本です。前向きなのは有り難いのですが、まだ依頼料の確認もしていないのですから落ち着きましょう」
「はぁっ、これじゃどっちが年上か分からないですねぇ・・・」
ここまで案内してくれた買い取り窓口のお姉さんも呆れた顔でため息をついた。ここの上層部はいつもこんな感じなのだろうか。
「コホン、佐倉君、案内御苦労だった。後はいいので窓口に戻りなさい。そして滝本君、契約を詰めるとしようか」
咳払いで空気をリセットし、威厳を出そうとするギルド長さんだがもう遅い。俺の中ではこの人は残念ギルド長として登録されました。
「それでは失礼します。滝本さん、また後ほど」
窓口のお姉さん改め佐倉さんは俺にウインクして部屋から退出していった。さて、ここからが商談だ。甲羅だけでなく剣の鞘も作って欲しいから頑張らないとな。




