第六百九十八話
「玉藻お姉ちゃんも律儀よね。放置でも良いのに」
「その優しさが良いのです」
夕食後、スマホに届いたメールを確認している。覚えのないアドレスからの物は返信せずに削除し、友人や知人からの物には返事を書いていく。
千里の道も一歩から。少しづつでも減らしていけば、いつかは全てのメールを処理できる筈である。今も尚届いているメールの数を処理数が上回れば、だが。
因みに、冒頭のセリフは尻尾二本を両手に抱えて満喫している舞とアーシャの発言である。今日は舞の部屋に泊まるそうだ。
翌朝、宮内省から面会要請が入った。対象は俺と舞とアーシャ。申請者は埼玉県警本部長となっているので、用件はお出かけについてだろう。二人と相談し受ける事にした。
希望日時は出来るだけ早くとなっていたので、今日の午後に設定した。護衛計画を組み直すのならば早い方が良いだろう。
「人数は三人、申請通りです。危険物は身につけていません」
訪問者が到着したとの知らせを受け、アーシャに千里眼で確認してもらった。安全が確認されたので面会の場となる応接室に移動する。
「玉藻様、アナスタシア皇女殿下、お時間をいただきありがとうございます」
応接室に入ると、警察の制服を着た男性とスーツ姿の男性二人が立ち上がり深く礼をする。舞の名が無いのは身分が無いからだろう。
神使の妹ではあるけれど、身分としては平民なのだ。ロシア帝国皇女殿下の側近でもあるけれど、その身分は舞自身ではなくアーシャの身分に付随するのだ。
「私は埼玉県警本部長を務めております山野井です。こちらは上尾のカリオの責任者で石川、隣はカリオ外商部の責任者で石原です」
山野井本部長が同行してきた二人を紹介する。俺は着席を促しこちらもソファーに腰を据える。メイドさんが淹れた紅茶で口を湿らせ本題に入る。
「来週行われるカリオ上尾訪問ですが、当初の予定ではアナスタシア皇女殿下を滝本中尉と舞さんが直衛し我々が影から護る事になっていました」
「特殊なアイテムを使いバレぬようにする事になっておるな」
山野井本部長が来週の護衛計画を説明し、俺が補足する。レイスの布と明言しないのは、カリオの二人が居るからだ。
「しかし、直衛の護衛であった滝本中尉が護衛対象となった為、護衛計画を変更せざるを得なくなりました。それにより施設側の協力も必要と判断し、宮内省に許可を取りカリオに申し出た訳です」
今更だが、カリオというのは大型ショッピングモールを運営している企業である。日本各地に大型施設を展開しているのだ。
「社長以下重役総出でご挨拶をとなったのですが、大勢での訪問は避けた方が良いと山野井本部長に言われまして。私と外商の石原が参ったという訳です」
外商とはデパートなどにおいて店舗外での購入をサポートしたりする部署だ。華族や富豪が店舗に出向かず店舗の者を呼びつけて商品を注文する時に対応する事が多い。
そんな部署の責任者が来たのは玉藻やアーシャと会った事を実績に御用達と喧伝するつもりだろう。流石は商売人、抜け目がないな。




