第六百九十五話
「車、壊れてしまってますね」
「あれだけの騒動です、これだけの被害で済んだのは幸いかと。それも玉藻様のお陰です」
優になっているのに関中佐の話し方が玉藻に対する話し方になっている。これは周囲にバレているからだろうか。
「中佐、中尉の俺に丁寧語を使うのは・・・」
「既に滝本中尉が玉藻様と知られております。表向きの階級がどうあれ、神使様に無礼は働けません」
警察の目もあるし、規制線の外にはマスコミが集まってカメラをこちらに向けている。今まで通りの話し方をしてもらったら、そこに難癖を付けてくる奴が出るだろう。
優の姿で中佐に丁寧語を使われるのは背中がむず痒くなるが、私情で関中佐の立場を悪くする訳にはいかない。
「・・・仕方ないですね、慣れるしかないですか。それより、そろそろ戻りましょう。ここに居てもマスコミが喜ぶだけです」
「そうですな。では、警察に掛け合って車両を借りましょう。そこに地下鉄の入り口はありますが・・・」
「地下鉄なんて使ったら取り囲まれて動けなくなるのがオチでしょうね。それ以前に、地下に張られているだろう規制線も人だかりで抜けられないでしょう」
先程事情を話した警察官の所に行き、市ヶ谷まで送ってもらえるよう交渉した。と言っても、中佐が頼んだら二つ返事で了承してくれたのだが。
「中佐、運転してくれていた先輩の姿が見えませんが?」
「彼は残って事後処理に当たってもらっています。なので心配いりません」
本来ならば先輩を差し置いて新入りの俺が戻るのはマズイだろう。しかし、俺が残って何かをしようとしても警察官の人達は萎縮してしまい邪魔になりそうだ。
「お待たせしました。普通の覆面で申し訳ありませんが、陸軍本営まで送らせていただきます」
「手数をかけて済まない。所轄の方々のご配慮、漏れなく上に伝えましょう」
関中佐と責任者の警察官が固く握手し、用意してもらった車に乗り込む。俺と中佐が乗り込み、ドアを閉めてもらったのだが、ドアを閉めた責任者の警官が回り込んで運転席に乗り込む。
「それでは参ります」
「お願いします・・・現場責任者の貴方がここを離れて大丈夫なのですか?」
関中佐を差し置いて返答し、ついでにツッコミまでしてしまった。先程別れの挨拶してたのに、そのまま運転席に座るって突っ込むしかないでしょう!
「神使様をお送りする大役、他の者になど任せられません!」
いや、警察がそれで良いなら良いのだけどね。関中佐も微妙な表情してるけど納得してるみたいだし。
「すいません、中尉が玉藻様に変身する動画がSNSにあげられていますが・・・」
「滝本中尉が神使様で間違いないのですか?陸軍はそれを承知していたのですか!」
普通のパトカーが先導し規制線を越えたのだが、陣取っていたマスコミがパトカーと覆面の間に入り進行を妨げる。
「有名税って奴ですか。玉藻様、大変ですね」
「もう慣れましたよ。慣れたくなんてなかったですけどね」
人間とは慣れる生き物である。尚、人間じゃなく半神だろっ!というツッコミは受け付けませんので悪しからず。




