第六百九十三話
「林原さんっ!」
「うっ、うあっ、きつね、巫女さん?」
炎が消えた跡には膝立ちになっている林原さんの姿があった。力が入らないのか、倒れようとしていた林原さんを支える。
「炎を生み出していた元凶は消した。もう大丈夫な筈だ」
「滝本・・・君。そ、そっかぁ、きつね・・・巫女・・・さん、滝本君・・・だっ・・・たん・・・だぁ」
どうやら暴走している時の記憶は曖昧なようだ。妖狐化を解除した俺を見て驚いたようだが、その声に力は感じられない。
「すぐに救急車が来る、しっかりして!」
「はな・・・し・・・たい・・・け・・・ど」
「林原さん、林原さん!」
腕の中で瞼を閉じた林原さんの慌ててしまったが、胸が上下しているので呼吸はしているようだ。首筋に手を当てると鼓動も感じられたので、気絶しているのだろう。
遠くからサイレンの音が近付いてくる。程なくして警察と消防、救急が到着した。消防は炎の玉の熱で焼かれた場所に放水し、警察は付近への立ち入り制限と負傷者の捜索を行っている。
林原さんと緒方元少将は救急車に乗せられ搬送されていった。元少将は結構出血していたが、処置が間に合っている事を祈ろう。
「滝本中尉・・・」
「中佐、独断で玉藻になってしまいました。すいません」
「いえ、正体を明かすのは玉藻様の判断で行ってもらって構いませんでした。それよりも被害を最小限に抑えていただいた事に謝意を述べさせていただきます」
臣民の避難にあたっていた関中佐と合流したので、独断で玉藻の正体を明かした事の謝罪をした。正体をバラす時は相談して行うと決めていたのに、それを破ったからだ。
しかし中佐はそれを咎めなかった。あの状態を収めるには玉藻になるしかなかったと中佐も感じていたのだろう。
「まさか落とし亀の大盾を溶かされるとは思いませんでしたな」
「流石にあれでは着せ替え人形の再生も効かないでしょう」
大盾だった代物はその原型を留めておらず、アスファルトの上で水溜りのようになっていた。
「申し訳ありません、事情をお聞きしたいのですが」
「ご苦労さん、事情と言われてもあまり話せる事はないが、それでも構わないかな?」
駆けつけた警官の指揮官と思われる人が遠慮がちに話しかけてきた。俺も中佐も軍服を着ているので陸軍士官だと分かっているからだろう。
「公務で通りかかったのだが、前方の車からいきなり乗っていた者が逃げ出してな。その後すぐにその車が炎に包まれたのだ」
「成る程・・・って、中尉殿が神使様なのですか!」
事の次第を説明するならば、俺が玉藻である事を避ける事は出来ない。半信半疑といった感じの警官を納得させる為、俺は女性体と妖狐化を発動する。
「これが証拠じゃな。これで納得せなんだら証明のしようがないのじゃが」
「い、いえ、目の前で顕現なされて信じないなんて事はありません!」
目の前の警官だけでなく、他の警官も作業の手を止めて俺を凝視しているようだ。警官の皆さん、ちゃんとお仕事して下さいね。




