第六百九十二話
「アアアアアアアッ!」
「無礼を働いた儂が頼める筋合いは無い事を承知で頼む、あの少女を救ってくっ!」
「お主、自分が重傷を負っていると自覚せい。言われぬでも救いたいが、ちと骨が折れそうじゃな」
少女が纏う炎は強くなっているようで、炎の玉を放つ間隔も短くなってきた。しかし俺の神炎は四連装なので、単発の炎の玉を尽く相殺していく。
「落ち着け、落ち着かぬか・・・これは理性が飛んでいそうじゃな」
少女は俺の呼びかけに応える事もなく、ただ叫びながら炎の玉を乱射している。俺は少しづつ少女に近付いて行った。
このまま少女に理性が戻らないのであれば、少女が纏う炎を消して取り押さえる。そして少女が正気に戻るまで語りかけるしかないだろうと判断したのだ。
「な、なんじゃと・・・何故お主が!」
距離を詰めた事により、炎でぼやけていた少女の姿がより見えるようになってきた。炎に包まれ叫び続けていたのは、かつて隣の席で共に学んだ少女だった。
「元少将の頼みと関係なく救う理由が出来たようじゃな。林原さんを無事家族の下に返さねば!」
とは言ったものの、林原さんは理性を取り戻すどころか逆に暴走が酷くなっているように見える。
「一か八か、明るいお主に戻るのじゃ!」
炎の玉を相殺してすぐに神炎を林原さんに向けて放つ。焼くのは林原さんが纏う炎。あれを鎮めれば理性を取り戻してくれるかもしれない。
「なんで、なんで私だけが・・・もういや、もう嫌ぁ!」
僅かに理性を取り戻したように見えた林原さんだったが、大声で叫ぶと再び吹き出した炎を纏ってしまった。俺は再度纏った炎を消すと、妖狐化を解いて林原さんを抱きしめた。
「林原さん、大丈夫。ここには林原さんを傷付ける人は居ないから。恐れなくて良い、悩みなら幾らでも聞く。林原さんは一人じゃない!」
「えっ・・・あっ・・・た、滝本、君?」
玉藻よりも知己である優の方が林原さんが安心出来ると思ったのだが、効果はあったようだ。林原さんは俺をちゃんと認識して名前を呼んでくれた。
「久しぶりだね、林原さん。話したい事も、聞きたい事も一杯あるよ」
「私も滝本に話したいこ・・・ああっ、熱い、滝本君、離れて!早く逃げて!」
元に戻ったと思われた林原さんだったが、いきなり俺を突き飛ばした。その直後、彼女の体内から炎が吹き出し全身を包んでいく。
「そう簡単にはいかないか。でも、林原さんは戻ったんだ。何度でもやってやる!」
先程よりも早く炎の玉を生成した林原さんに冷や汗をかきつつも、玉藻になってそれを相殺する。彼女の炎は明らかに強くなっていた。
「いかん、このままでは相殺するのも追いつかなくなるかもしれん」
対症療法ではなく、大元の病原を取り除く必要がある。望んだ物を焼き尽くす事が出来る俺にしか出来ない芸当だ。
「明るい林原さんに戻るのじゃ。神炎よ、彼女の炎を生み出す根源を焼き尽くせ!」
「アアアアアアアッ!」
自身の炎に神炎の炎が加わった林原さんの身体は更に激しく燃えだした。苦悩に満ちた叫び声が響き、その炎は徐々に小さくなっていく・・・




