第六百九十一話
「避難誘導をっ!中尉はアレを抑えてくれ!」
関中佐と運転していた先輩がパニックに陥っている一般人を避難するよう働きかける。問題の車から逃げた二人のうち一人に見覚えがあったが、それどころではなかった。
炎の柱が収まった場所には、一人の少女が佇んでいた。彼女は真っ赤な炎を纏っているが溢れた炎が大きな玉となっている。
「マズイ、間に合わないか!」
少女の前面に形成された炎の玉は今にも飛び出しそうだ。それが少女の前方に放たれた場合、混乱している人達に直撃する事になるだろう。
「させるか、『ぶつけた小指の痛みを共有するスキル』!」
歩道の方から叫び声が聞こえると同時に、少女はバランスを崩してしまった。それに釣られて前面に浮いていた炎の玉も移動し、誰も居ない道路に着弾して破片を撒き散らした。
声がした方向を見ると、緒方元少将が倒れていた。少女がバランスを崩したのは彼のスキルによるもののようだ。
「大丈夫ですか!動かないで下さい。出血が酷い!」
元少将の脇腹は真っ赤に染まっていた。先程の破片が直撃してしまったのだろう。思わず駆け寄るが、緒方元少将は顔を歪ませながら叫んだ。
「疾く逃げよ!次が来る!」
元少将の警告に少女の方を見ると、新たな炎の玉が作成されていた。そしてそれはこちらに向けて撃たれる寸前であった。
「女性体、着せ替え人形!・・・熱いっ!」
咄嗟に女性体を発動し、着せ替え人形も発動して双剣から大盾に装備を変える。構えた大盾に角度を付けて着弾した炎の玉を上に向かっていなしたのだが、持ち手まで熱くなり即座に手放した。
「何をしておる、早く逃げぬか!」
「あの少女を放置は出来ません」
「ならば儂など放置して戦え!お主は軍人じゃろう。守るべき者を間違えるな!」
言い合いをしている最中にも少女は次の炎の玉を形成していた。そしてその目標は盾を失った俺と元少将に向けられていたのだった。
「深手を負った儂は動けぬ。犯罪者など放置して臣民を、そして出来ればあの少女を救ってくれ!」
「緒方元少将、私は強欲なのです。なので臣民も、あの少女も・・・そして貴方も救いたい!」
少女から炎の玉が放たれた。俺が持つ武具のうち最も防御力が高い落とし亀の大盾は炎の玉を一発受け流しただけで溶解した。
残った双剣でも斧槍でも、あの炎の玉は防げないだろう。障壁を作るクマさんがあれば防げたかもしれないが、それはアーシャが持っているのでこの場には存在しない。
「青臭い事を言うな、現実を見ろ!貴様のような若者が命を無駄にしてはならぬ!」
「炎の玉を防げない。ならば防ぐのではなく消せば良い」
炎の玉は放たれた。大盾を失った俺にはそれを防ぐ手段が無かった。ドレスアーマーの防御力を頼りに防ごうとしても、元少将諸共焼かれてしまうだろう。
「たっ、玉藻・・・だとっ!」
「我が神炎は我が望む物を焼き尽くすのじゃ。例えそれが炎であろうともな」
重傷を負った緒方元少将の前には、狐耳を生やし四本の尻尾を揺らした巫女服の少女が立っていたのだった。




