第六百九十話 とある秘密施設にて
話は前日に遡る。とある秘密施設の施設長の部屋に緒方元少将が呼び出された。
「明日、君に頼みたい事がある。指定した場所から板橋ダンジョンまで、人を一人運んでもらいたい」
「ダンジョンに・・・こんな少女に何をさせる気だ?」
「それは君が知る必要はない。君はただ彼女を板橋まで届ければ良いだけだ。ギルドの裏で別の者が受け取る。それだけだよ」
緒方元少将は、以前同じようにしてギルドに届けた少年の末路を思い出していた。それが指示を唯々諾々と受ける事を拒ませた。
「また年端もいかぬ者を犠牲にする気か?その片棒を担げと言いたいのか!」
「我々が命じられたのは、少女を送る事だけだ。その少女の素性も何をするのかも知らんよ」
元少将の怒りを飄々と受け流す所長。それだけでなく反撃する事も忘れない。
「もしそうだとして、君はどうするつもりかね?君は既に『犠牲を出す事』に加担している。その手は汚れていないとでも言うのかね?」
知らなかったとはいえ、前回の悲劇に加担してしまったのは変えようのない事実だ。それを指摘された元少将は悔しそうに所長を睨むも反論出来ない。
「そう固く考えるな。君は現役の女子高生とドライブを楽しむだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。いいな、頼んだぞ」
もう用事は済んだとばかりに手を振って元少将に退出を促す。これ以上何を言っても無駄だと判断した元少将は部屋から出て副官と合流した。
「閣下、どうなさるので?」
「すっぽかした所で先延ばしにしかならん。我々が行かねば別の者が派遣されるだけだろう」
気が進まぬ任務だったが、元少将は指示に従う事を決めた。副官も異を唱える事もなく従うようだった。
「閣下、目標と思われる少女を発見しました」
「うむ、寄せてくれ」
翌日、中野駅近くの指定場所にて一人で立つ少女を発見した副官が車を停める。後部座席の窓を開けた元少将が話しかけた。
「お嬢さん可愛いな。オジサンと亀退治に行かないかな?」
「亀退治?兎退治なら行っても良いわよ」
符丁を確認した元少将はドアを開けて少女を後部座席に招き、符丁にて迎えの者と確認した少女は素直に乗り込むのだった。
「君のような子が、何故あんな組織に・・・」
「仕方ないのよ、うちは普通の家だったから」
普通そうな少女が怪しげな組織に居る事に思わず呟いた言葉に、少女は律儀に答えを返してきた。
「頑張って勉強して、良い学校に入って・・・でも、授かったスキルは爪に火を灯すスキルだった」
この少女もスキルによる被害者だった。何も言えない元少将を余所に、少女の独白は続いた。
「学園から追い出されるかもしれないのに、断れる訳が無いじゃない。私に選択肢なんて無かったのよ」
気不味い沈黙が車内を支配する中、車は順調に進み新宿の駅近くまで進んだ。
「このまま、逃げるという手もある。儂にもまだ伝はある。君一人くらいなら・・・」
「無責任な事を言わないで、私一人が逃げたら家族はどうなるのよ!私だって、私だって、逃げられるなら逃げたいわよ!」
少女の感情が昂るにつれ、車内の温度が上がっていった。そしてその身から赤い炎が吹き上がる。
「いかん、脱出しろっ!」
元少将は運転していた副官に車から逃げるよう促すと、自身もドアを開けて逃げ出した。車が渋滞により止まっていたのが幸いであった。
二人が脱出を果たした直後、車は閃光を発して炎の柱に呑まれたのだった。




