第六百八十八話 とある秘密研究所にて
「何故止めなければならない、確実に成果は出ているのだぞ!」
ここはとある秘密組織の秘密研究所の所長室。机を叩きスーツ姿の男に対して叫んだのはここの最高権力者である所長だった。
「その成果を出す為に必要な素材の数は如何程かな?あれだけの素材を使っておいて残ったのは三人のみ。しかも、その内の一人はあのザマだ」
「それについては心配ありません。実験に耐えられたのは知力か体力が優れた者でした。施術の対象を絞れば成功率は跳ね上がります」
「そ、その通りだ!これまではデータを集める為に多くの実験が必要だったが、これからは得られたデータを活かせば成功率は上がる!」
スーツの男からの追及に対して所長の脇に控えた副所長が回答した。所長もそれに乗り弁明する。しかし男は納得しなかったようだ。
「それは楽観的すぎる未来予測ですね。それにです、もし貴方達が言う通りの成功率になったとして、かけた費用に相応しい対価を得られますか?」
「対価、だと?」
「ええ、そうです。貴方達も陸軍が公表した映像を見たでしょう?三十五階層に出るという大亀の動画を」
所長と副所長は陸軍が発表した三十五階層に出現するというモンスターの動画を思い出した。それが何故研究の中止に繋がるのかと疑問に思う。
「ダンジョンで自壊した実験体があれを撃破出来ると、貴方達は断言出来ますか?」
「そ、それは・・・」
「上層部は無理だと判断したのですよ。大金を注いで研究を続けても、ダンジョン攻略を進める戦力にはならないとね。損切りは早めにし、損害を抑えるのは商売の鉄則です」
実験体ならば大亀を倒せると断言出来ない所長と副所長は黙り込んだ。何とか研究続行を引き出す言い訳が無いかと頭をフル回転させる。
「身体強化型ではなくスキル強化型ならば・・・彼女なら大亀でも焼き尽くす事が出来るかもしれません」
「まずはモンスターを一匹でも倒してから言うべきですな。その実験体も前の者と同様、運用してすぐに自壊するのがオチなのでは?」
スキルの強化に成功したとはいえ、まだ実験室内でしかスキルを使用した実績は無かった。それ故所長と副所長は何も言い返せない。
そんな事は無いと言った所で、一体目の実験体が使えなかった事実により説得力の無い戯言だと思われるだろう。
「いいですね、今後研究所はスキルのデータ収集と解析を行うに留める。それが上の決定です。確かに伝えましたよ」
男は二人の返事を待たずに部屋から出て行った。所長はその背中を親の仇でも見ているような視線で射抜くが、去りゆく男には何の意味もない。
「おい、スキル強化型を実戦投入する手配をしておけ」
「所長、それでは上に逆らう事に・・・」
「結果さえ出せば上も納得する。それに、止められたのはこれ以上の実験だ。これまでの実験の成果確認までは止められていない!」
屁理屈を捏ねる所長に対して、副所長は止める事をしなかった。彼も内心では所長に賛同していたのだ。こうして次なる悲劇への道が開かれたのだった。




