第六百八十四話
関中佐に時間がある時に通話して欲しいとメールを入れておく。するとすぐに中佐からの着信が入った。
「中佐、忙しい所を済まんのぅ」
「つまらない書類仕事などより玉藻様の方が優先されます。お気になさらずに」
話す声が嬉しそうに聞こえるのは気の所為だろうか。どんだけ書類仕事をやりたくないのだ関中佐。
「話というのは他でもない、今日三十五階層に到達したのじゃ。出現するモンスターは隼じゃった」
「火鷹のような飛行モンスターですか。それは厄介ですな」
火鷹も空中から火の玉を放ってくる強敵だった。しかし、今回の隼はその上をいく厄介さだ。
「風属性らしくてのぅ、見えない斬撃を放ちながら急降下攻撃を繰り出してきおる。何とか初撃の斬撃は躱したのじゃが、二撃を食らってしもうた」
「玉藻様が負傷されたと?お怪我の具合は?!」
「左腕に裂傷を負った程度じゃ。応急処置で血も止まっておる。戦闘も可能じゃろう」
左手で鉄扇を操るのには少し違和感が出るかもしれないが、神炎で遠距離攻撃をする分には支障無さそうだ。
「玉藻様、戦闘は避けて帰還をお願いします。御身に万が一があってはなりません」
「相分かった。妾単独で隼に対抗するのもキツそうじゃ。一旦戻るとしようぞ」
このまま三十六階層への渦を探すのは無謀だ。地上に戻って対策を練る必要がある。通話を切った俺はレーションで早めの昼食を取り地上に戻る事にした。
三十四階層への渦はそう離れていない。すぐに戻れる距離にある。と思って少々油断した。上空から放たれた斬撃を紙一重で何とか躱す。
崩れた体勢を戻さずに、そのまま右に倒れて地面を転がった。小さい石の上を転がったので地味に痛い。しかし、頭上を通過していった隼の攻撃を食らうよりは遥かにマシだ。
「妾が戻るのを待っておったのか。しつこい男は嫌われるぞえ」
あの隼が雌の可能性もあるのだが、細かい事は気にしない。ダンジョンのモンスターに雌雄の区別があるのか?とも思うが、夫婦鶏は雌雄が存在するので多分あるのだろう。
「なんてくだらぬ事を考えるヒマも与えてはくれぬ・・・ちっ!」
しょうもない事を考えている間に、隼は上昇して高度を稼いでいた。そして再度急降下攻撃を仕掛けてくる。
風魔法の斬撃を何とか躱したのだが、そこに隼本体が同時に突撃してきたのだ。前の急降下よりも速度が速い。まさか三味線弾いていたのか?
回避は間に合わないと判断した俺は妖狐化を解いて滝本優に戻った。そして持っていた落とし亀の大盾で隼を防ぐ。
「くっ、こいつ、風魔法で速度を上げていたな!」
本体が衝突した衝撃に続き、強力な風が俺を襲った。しかし隼の後押しをする目的の魔法だった為、物理的に押されるだけだったので何とか堪える事が出来た。
「逃がして堪るか!」
大盾にぶつかった衝撃でヨタヨタと飛びながら離脱しようとしている隼に斧槍を向けて魔力を込める。伸びた柄に押された穂先は逃げようとしていた隼を貫いた。
「滝本優のステータスに水中村ダンジョン三十五階層到達の記録が付いてしまったか。帰ったらこれも関中佐に相談しないとな」
玉藻に戻り隼が落とした魔石を拾う。三十五階層のモンスターだけあって結構な大きさの魔石だ。そのまま渦に向かって走り、無事に三十四階層に戻る事が出来た。




