第六百八十話
「裏取りは必要だ、欧州の日本大使館には情報を集めるよう頼んでおこう。それと、英国大使がまた来る事が考えられる。中尉にはダンジョンに潜ってもらおう」
「そうですね。調べる事もありますし、その方が良いかもしれません」
三十五階層の出るモンスターの確認やその先のモンスターの確認もしておきたい。大使の勧誘も躱せて一石二鳥だ。
「士官学校には通達しておく。潜るにあたって必要な物資はあるかね?」
「いえ、備蓄がありますから差し当たって補充せねばならない物はありません。明日からでも潜れます」
缶詰やレーションといった保存食はまだ在庫がある。それに海の幸も山の幸も取り放題なので食料の心配はしなくて良い。
「では、急だが明日から頼む。手順だが・・・」
今回の探索は成果を公開しない。玉藻単独で最高到達階層を更新してしまうので、マスコミから補給などについて聞かれると迷い家をバラさずには説明出来ないのだ。
「えっ、お兄ちゃん明日からダンジョンに潜るの?」
「ああ、急だが事情があってな」
迎賓館に帰り家族に明日から暫くダンジョンに籠る事を伝えた。舞は一緒に来たがったが、学校を休む訳にはいかない。渋々諦めてくれた。
「今のうちにモフり貯めしておかないと!」
諦めた代償に玉藻になって尻尾をモフり放題とする事を求められたが、それくらいなら良しとしよう。母さんも便乗して尻尾を両手に抱えていたが、些細な事だとスルーした。
翌朝、軍指し回しの車で西に向かう。車内に俺の姿を確認したマスコミの車両がゾロゾロと付いて来るが、今日は撒かずに引き連れていく。
区内を抜けて向かった先は福生市だった。前世では米空軍基地になっていた横田基地である。今世では日本帝国陸軍の基地になっている。
厳重に警備されている門を潜ればマスコミは追跡する事は出来ない。あの中には英国大使館の息が掛かった者も居たのだろうが、これで俺の行方は追えなくなる。
前世同様広い敷地には滑走路が整備され、この世界では珍しい航空機が運用されている。今日はここから新潟方面に飛ぶ定期便に便乗させてもらう事になっている。
「テレビで見て知ってはいたが、あれは大変だな」
「隠密行動が必要な情報部員としては余計な手間がかかるので勘弁して欲しいのですが・・・」
同じ機に乗り合わせた大尉が窓から見えるマスコミ達を見て呟く。あれらを撒くのに手間と時間がかかるので動きにくいのだ。
新潟基地に無事到着し、駅弁を買って高速鉄道に乗り込む。上毛高原駅で降り適当な山に入ると玉藻に変わる。
迷い家で駅弁を食べてから空歩で水中ダンジョンに向かい、常駐する情報部の先輩に挨拶をして潜っていく。
三十四階層までは前回潜っているので迷う事は無い。途中迷い家に宿泊しながら潜っていく。問題は三十五階層への渦の位置だ。アーシャが居れば簡単に見つかるが、今回は俺一人。頑張って探すしかないな。




