第六十八話
俺はゴーレムの魔石を拾い、少し離れた場所に遺棄された片手半剣を拾いに行く。このまま放置していたらこの哀れな剣はダンジョンに吸収されてしまう。
「上手くいくかどうかは分からん。じゃが、そのまま消えるよりは良かろうて」
一瞬だけ迷い家を発動して魔石と折れた剣を放り込む。幸い他のゴーレムが集まってくる様子も無かったので、先に撤退した四人を追う事にした。
五人は十六階層への渦の脇で休憩していた。そのまま通り過ぎるのは気不味いので話しかける事にする。
「あの程度の音ではゴーレムは集まらんようじゃ。氾濫の恐れは無いじゃろう。して、そなた等は帰るのに支障はないかえ?」
「それは良かった。俺達なら大丈夫だ。俺が荷物を持てば四人が戦える。戻るだけなら問題ない」
剣を折った男が荷物持ちを担当する事で戦力の低下を最小限に抑えるようだ。四人居れば群れ狼にも対応出来るだろうし、最短距離を行くだけならリスクは少ないだろう。
「了解じゃ。では、妾は先に戻らせてもらう。また会えるかどうかは分からんが達者でな」
「助けてくれてありがとう、本当に助かった。また会える事を祈るよ」
少々無謀な挑戦をしていたようだが、この五人は以前の軍人と違い普通の探索者だった。ああいう人達ばかりならば交流するのも良いのだが、黄金虫の時のような輩も居るから躊躇してしまう。
その後寄り道せずに真っ直ぐ九階層まで戻る。途中数組の探索者パーティーとすれ違ったので、後で噂になるかもしれない。
落とし亀の出る九階層に到着し、最短ルートから外れる。周囲に誰も居ない事を確認してから迷い家に入った。
入口近くに放ってあった魔石と折れた剣を家屋に運び
小休止する。畑のキャベツを収穫し、突撃豚の豚カツを作った。
旨味溢れる豚カツを齧り、ホカホカの白米をかきこむ。何も付けずとも甘いキャベツの千切りを挟み、またカツを頬張る。
食べてる最中から独り占めはズルい!との思念がバンバン来ていたので、二枚の豚カツを新たに揚げて山盛りキャベツと共にお供えした。
ダンジョンの中で安心して揚げたて豚カツを味わえるこのスキルの代償と考えるならば、余分に調理して奉納するくらいどうってことはない。
食休みを取った俺は折れた剣の柄と刃先を持って迷い家を出た。念の為、再度周囲に人が居ないか確かめる。問題ない事を確認して俺は妖体化と女性体のスキルを解いた。
男に戻り、着せ替え人形のスキルを発動する。目の前にジャージを着た人形が姿を現す。
「さて、上手くいくかどうか・・・」
人形の右手に柄を、左手に折れた剣先を直に持たせる。柄の方は再生される可能性が高いと踏んでいるが、刃先だけの方は賭けだ。
後は時間経過を待つしか無いので人形をしまう。亀の魔石は十分あるので、この姿で手間暇かけて狩る必要もない。特にやる事も無いので玉藻となり迷い家に引きこもった。
地上が明日の朝になるまで暇になってしまった。畑からじゃが芋と玉ねぎ、人参を収穫してカレーを作る事にしよう。肉は突撃豚を使用する。
前世でも今世でも割って溶かすだけで美味しいカレーが出来るのだから有り難い。幾つかのメーカーや辛さの物をブレンドするのも楽しいが、今日はシンプルな中辛を選択。
再び揚げた豚カツを乗せたカツカレーは絶品だった。催促されるだろうと予想していたので、余分にカツを揚げて奉納しておいた。女神様、迷い家の狙いはこれだった・・・なんて事はないよね?