第六百七十九話
「中佐、お忙しい所を申し訳ありません」
「中尉のせいではない。しかし、面子を重んじる英国の大使が訪問予約もせずに中尉に会いに行くとはな」
学校を早退した俺は、その足で情報部に出勤した。幸い関中佐が部長室に居て、英国大使訪問の情報も入手していたようだ。
まずは英国大使とどのような会話をしたのかを覚えている限り克明に話す。いきなりの訪問で録音していなかったのは失敗だった。
「英国は随分と焦っているように見受けられるな。アポ無し突撃といい、何かおかしい」
「俺もそう感じました。突撃の件は陸軍に面会を申し込んでも断られると思ったのかもしれませんが」
「玉藻様との面会を却下し続けた実例があるからな。英国がそう考えても不思議ではない」
大使と俺との面談を陸軍に邪魔されないようにアポ無しで訪れたというのは当たっているのではないかと思う。しかし謎なのは、何故そこまでして俺を勧誘するかだ。
「玉藻との面会で俺も誘うとは言っていましたが・・・ここまで拘る理由って何でしょう?」
「日本程ではないが、英国も到達階層では世界トップクラスに位置している。日本が頭二つリードしたとはいえ、そこまでするのは不自然だな」
関中佐が入手している情報の範囲では、魔石の供給が減ったなどのダンジョン攻略用戦力を日本から求めるような要因は無いらしい。
「英国だけでなく、欧州で何か起こった可能性はありますかね?」
「欧州全体で見ても異変が起こったという情報は無い。それどころか順調に地上のモンスターの駆逐は進み、後はロシアからのモンスターを防ぐだけという事だ」
欧州も英国の支援で大氾濫で逃げたモンスターの駆逐を完了しつつある。ロシアは広大過ぎて安全を確保できたのは都市部周辺だけらしく、そちらから流入してくるモンスターの対処は必要なようだ。
「とすると、モンスター絡みで戦力は必要無いという事になりますね。他に英国が抱えている問題で戦力が必要なのは、対テロ戦闘でしょうか」
「それは無いだろう。我が国より進んだ対人兵器を持つ英国が我が国の支援を必要とするとは思えない。第一、その支援に中尉を必要とする理由が分からない」
テロリストが強力な戦闘用スキルを持っていて、その対策に俺を利用しようとしている可能性もある。だが、テロリストが人ならば機関銃などの兵器を使う方が楽だろう。
「欧州にも異常は見当たらない・・・あっ、もしかしてそれが原因なのではないですか?」
「異常が無いから中尉が必要・・・そう言う事か!」
欧州は順調に復興している。では、復興し終わったらどうなるか。ドイツやフランスといった国々は、地上のモンスター対策に費やしていた戦力をダンジョンに向ける事が可能となる。
そうなると、早期に大氾濫で出たモンスターを駆逐した英国のアドバンテージが無くなるのだ。応援に出していた軍を引き上げる事が出来るので英国の戦力も上がるが、それは英国の国際的立場が下がる事も意味する。
各国に援軍を出す盟主。その看板の代わりに求めたのが、ダンジョン攻略最先端国家という名誉なのではなかろうか。




