第六百七十五話
「前任の者に聞きましたが、貴国は更に到達階層を伸ばされたとか。羨ましい限りですな」
「貴国とて三十階層を超えておる筈。じきに追い付くと思うておるよ」
俺達が三十五階層に到達した時、大使は艦隊に乗り日本に向かっている最中だった筈だ。寄港時に耳にしたか、引き継ぎの時に聞いたのだろう。
「我らも貴国の手法を参考にしていますが、中々に上手くいきません。日本の攻略隊の方に我が国で手本を見せて欲しいと思っているのですよ」
「ダンジョンは出現するモンスターは変わらぬが、地形によって難易度が変化するからのぅ。別のダンジョンでも同じ階層まで潜れるとは限らぬのじゃ」
デンシカやスレイプニルのような機動力が高いモンスターを相手にした時、平原や荒野のような走り回れる地形で戦うのと迷宮や洞窟のように狭い地形で戦うのでは難易度がかなり変わる。
「モンスターとの戦闘も大事ですが、最も問題なのは補給です。何でも最高到達階層を更新したパーティーはたった五人だったとか・・・」
「そこは軍事機密になる故お答えしかねるのぅ」
世間には冬馬パーティーと滝本中尉の四人で達成したとなっているが、英国には玉藻も関与したとバラしている。なので四人に玉藻を加えた五人で攻略したと誤認しているのだろう。
「神使殿、一度英国に来て頂く訳にはいきませぬか?我らは滝本中尉を我が国に派遣するよう日本陸軍と交渉致します。その際に是非おいでいただきたい」
それはちょっと無理がある。玉藻と滝本中尉、どちらかならまだ可能かもしれないが、両方を一度に呼ぶのは物理的に不可能だ。
「呼ぶのは滝本中尉と妾のみなのかえ?」
「我らの調べでは、冬馬軍曹のパーティーは二線級の戦力だったと判明しています。そのパーティーが最高到達階層を更新できたのは、滝本中尉による補給と神使殿の戦闘力による物だと推測しました。違っていますかな?」
「妾は軍人ではない故、軍の機密に関する事は答えかねる」
軍人ではない事を理由に答えを拒否したものの、それが、肯定する事になるから意味は薄い。
「そして、妾が英国でダンジョンに入るのは不可能じゃな」
「不可能ですと?日本陸軍は何としても説き伏せます。それでも不可能と言われますか?」
「妾は軍人ではないと言うた筈じゃ。不可能と言うた理由はそこではない」
例え日本陸軍が玉藻に英国でのダンジョン攻略を依頼してきたとしても、俺はそれを断るだろう。
「人の世は神の世の写し身。人の世の争いは神の世にも影響するのじゃ」
「それは、征服された者が信仰している神は征服した者が信仰している神に敗れた事になるので?」
「その通りじゃ。英国はその覚えがあるじゃろう」
過去に侵略を繰り返した英国はそれを何度も経験してきた筈だ。宗教を理由に遠征まで行ったのだから、知らないとは言わせない。
「妾は半神とはいえ神々の末席に籍を置く身じゃ。英国の神に断りもなく往けばどうなると思うのじゃ?」
人としての渡航に問題が無くても、神としては問題ありまくりである。なので俺はその要請を受ける訳にはいかないのだ。




