第六百七十四話
陸軍を通じて会談に応じる旨を伝え調整を繰り返し、大使との会談は十日後に英国大使館にて行う事となった。
会談まで時間が開くのは、大使交代による手続き等で大使が忙しいという事情があった。その間に英国から帝国陸軍に対して陸揚げされた戦闘車両が贈与されている。
これは報道される事はなく関中佐から伝えられた。手土産と引き換えに大使と神使の対談セッティングしました!なんて発表したら、陸軍は帝国臣民から叩かれるのが目に見えている。
会談の場所が英国大使館なのは、俺から申し出た事だ。相手に単身乗り込む事になるが、同盟国なのだからいきなり害を加える事はしないだろう。
そして英国の大使館について探れる事があれば探りたいという思いがあった。ダンジョン攻略ばかりやっているとはいえ情報部所属なのだから、情報収集する機会があればやっておきたい。
日本での役目を終えた英国艦隊が母国へ向け出港し、マスコミが英国大使館から消えた。俺は玉藻となって指定された日時に陸軍の車に乗って英国大使館を訪れたのだった。
「英国大使館へようこそ。私がこの度大使となりましたシーダー・マウンテンです」
「大使自らの出迎え痛み入る。妾は玉藻、日本の神の眷属じゃ」
玄関前で出迎えてくれた大使と名乗り合い、差し出された手を握る。取材のマスコミが居れば盛大に撮影され明日の朝刊の見出しに使われるのだろうけど、この会談はマスコミには一切通知されていない。
「人員が入れ替わり少々落ち着きませんが、どうぞこちらに」
大使に案内されて応接用の部屋に通された。途中行き違ったメイドや執事は廊下の隅に体を寄せ深く頭を下げて俺と大使が通過するのを待っていた。
「神使殿、お飲み物は如何されますか?日本茶も用意してあります」
「折角英国大使館にお邪魔したのじゃ、英国ご自慢の紅茶をいただきたい」
金髪碧眼のメイドさんにより紅茶が淹れられ、役目を終えたメイドさんは壁際に移動した。
「まずは前任の無礼をお詫びしたい。神に何かを望むなら、まずは供物を捧げるのは当然の事です」
「大使殿は異教の者に対して理解がおありのようじゃな」
キリスト教は一神教で他の神を否定している。なのに彼は神道の神への敬意を示した。
「欧州にも土着の信仰はありますのでな」
「ふむ、確かにギリシャ神話やローマ神話、ケルト神話などが残っておるのぅ」
俺が具体例を挙げると一瞬ではあるが大使は驚愕の表情を見せた。遠く離れた日本で欧州の神話を知る者が居ると思わなかったのだろう。
前世では小説や漫画、アニメの題材となり知る人が多い欧州神話だが、それらがあまり発展していないこの世界の日本でそれらを知る者はあまりにも少ない。
「神使殿は欧州の神話にもお詳しいのですな」
「仮にも神界に関わる身じゃ。それなりの知識は持っておる」
この大使はキリスト教以外の者にも理解を示す御仁のようだ。それは好ましい事だが、油断せずに探っていこう。




