第六十七話
相手は岩の塊だ。狐火は効かないだろう。斬撃も効果が薄いのは先程の戦闘を見て分かってはいるが念の為検証する。走り寄り、振るわれた右腕を躱しつつ鉄扇で斬りつける。
「はっ、速い!」
「しかし効いていない。片手半剣でも効かなかった相手だ。扇子でどうこう出来る相手じゃない」
言われなくても効いていない事は百も承知だ。鉄扇を閉じて打撃武器として使ってもリーチは短いし威力も低いので通用しないだろう。俺は両手の鉄扇を懐にしまい込む。
「さて、どこまで妾の動きについて来れるかのぅ」
再び振るわれた右腕を避けて胴体に迫るも、左腕でガードされてしまった。ならばと体を横に倒し、左腕を地面に付いて体を回転させる。
体を独楽のように回して遠心力を乗せた両足でゴーレムの右足を払った。腹部への攻撃を警戒していたゴーレムは見事にバランスを失い横倒しとなる。
「腹部への攻撃を意識させて足への攻撃か!」
「あれは初めから狙っていたのか?」
外野のざわめきを聞きつつ跳び上がり、前方に回転して付けた遠心力を付けてかかとおとしを食らわせる。まともに食らったゴーレムの頭部が草地の地面に半分めり込んだ。
「ふむ、衝撃が草地に吸収されて威力が落ちたかのぅ。迷宮ならば石畳でダメージが増えたのじゃが」
起き上がったゴーレムは頭部に付いた土を払う事もせずに襲いかかってきた。ダメージは予想以下でもヘイトはかなり稼いだらしい。
再び振るわれる右腕を横に動いて躱す。しかし放たれたパンチは途中で止まり、避けた俺を掴もうと迫ってきた。俺は広がった手の平を飛び越えてそれを避ける。
そこを残った左腕が狙って来たが、右腕の二の腕を蹴って頭部目掛けて跳躍する。目標を失い空振りした左腕を尻目に、がら空きの側頭部へと回し蹴りを叩き込む。
「なあ、あれと同じ事出来るか?」
「無茶言うなよ、視力上昇持ってるから斥候やってるだけだぞ。速度上昇か身体強化でも無ければ無理だって」
たたらを踏んで転倒を堪えたゴーレムに追撃を掛けようとしたが、予想より早く体勢を整えられて再び対峙する。
駆け出した俺に三度ゴーレムの右腕が振るわれた。今度は左腕を腹部で構え、接近させないよう防御している。前回のミスを修正してくるのは大したものだが、こちらも同じ攻撃をするつもりはない。
半身になってパンチを躱した俺は、目の前の太い手首を掴む。そのまま引っ張ってやればゴーレムは前のめりに倒れそうになり、自由な左腕で体を支えようとする。
その勢いを利用して腕を更に前に引っ張り、付いてきたゴーレムの体を俺の背中に乗せて前へと放り出す。柔道が無いこの世界では一本背負いなんて食らった事は無かっただろう。
大きな地響きをあげて倒れたゴーレムの頭に、再度跳んでからの回転踵落としを食らわせた。前回より高さと回転数を増しておいたので、威力はあがっている。
流石に効いたようで、頭部の半分以上が埋まったゴーレムは光を発して魔石へと変化した。ようやく討伐完了だ。
「少々派手な音を立ててしまったでな、他のゴーレムが来るやもしれん。早く十六階層に戻った方が良いぞ」
「あっ、ああ、そうするよ。しかし獣人のパワーは凄いなぁ」
華奢な少女が三メートルちょいのゴーレムを投げるシーンは刺激が強かったようだが、獣人故と納得したようだ。五人は気を取り直し撤退を開始した。




